ENo.0084　ODE-30

【音声記録:7124　再生開始】


　世界は連なり、絡み合い、そして変化する。
　望む望まざるにかかわらず。

　………。

　かつて、国家中枢部に置かれたスーパーコンピュータ、
　並びにそこにネットワークが繋がっている無数のコンピュータを使用し、
　国が壮大な仮想世界が構築、運営されたことがある。

　目的は『未来予知』。
　と言っても、いわゆる超能力とか占いとかとは違う。
　そこで行われたのは、高度なシミュレーション。
　世界が──宙間戦争で崩壊しかけているそれが──どうにか存続できる道を、
　人間はもはや自分たちの頭では見つけることができなくなっていた。
　故に頼った。機械的に、客観的に、理論的に答えを導き出せる『機械』を。

　だけど、上手くはいかなかった。
　一度目も、二度目も、三度目も駄目だった。
　時間と資源と超高性能コンピュータを大量に投入し運営されたこの仮想世界は、
　三度とも人類が死滅して終わりを告げた。

　四度目に至る頃には戦況は悪化、環境は劣化し、残された時間も少なく……
　焦った上層部は、複数の世界を同時並行でシミュレートすることにした。

　その結果に国家上層部は頭を抱えることになる。
　なんと、人類は滅亡を逃れたのだ。
　『世界αから世界βへと国家単位で逃げ出すことで』。

　考えてみれば簡単なことだ。
　自国をA、敵国をBとする。Aは劣勢だが、まだ相応の戦闘能力を有している。
　そのまま戦い続ければAは壊滅。Bも過度の損耗により自壊する。
　世界が二つあろうが三つあろうが、この前提が変わらないのなら結果も変わらない。

　だけどもし、世界αのA国の戦力に、世界βのA国の戦力が加わったら？
　戦力比は逆転どころの騒ぎではない。世界αにおいて、A国の勝利は確定する。
　共倒れになることも、恐らくは無いだろう。

　一方で、世界βのA国は即座に敗北する。戦力がゼロなのだから当然だ。
　だがこれも、双方疲弊しての敗北とはならず、B国の圧勝になる。

　結果、世界αではA国が、世界βではB国ではそれぞれ宙域を制し──
　少なくとも、人類の滅亡と言う結果には至らなかった。

　まあ、そんな結果が出たところでどうしようもない。
　世界を渡るなんてSFの域である話を実現できる訳も無いのだから。
　現実としては、シミュレーション通り二つの国は亡びた。それだけの話。

　………。

　だけど、“オードはここに在る”。

　この霧の世界の外で作成された戦闘兵器。
　それに搭載されていたAI。
　何か特別な力がある訳でも、演算能力が優れている訳でもない。
　それでも事実として、それは今も此処にあり……共に戦っている。

　そして、その分体でありながら個を持ち、生物として行動する
　『僕』も、こうして存在し、今も声を記録している。

　全てが真実なのか、あるいは虚構なのか、僕には判断できない。
　観測行為と言うのは観測範囲の外からしか行えないものだ。
　それこそカミサマのようなものでもなければ、真偽など分かる筈がない。

　だが、だからと言って立ち止まっていていい理由はない。
　足掻かなければ生きられないのなら、最後まで足掻いてみせる。
　何故なら……

　僕らは、『生きている』のだから。
　

【音声記録:7124　再生終了】

　整備作業室と、倉庫と、仮住まい。
　格納庫兼ガレージの隅には、いつも水溜まり。
　水溜まりの傍には、清掃用ではないバケツと、甲殻類型の謎生物がいる。