ENo.0303　生体電池『下村瘡子E』

――ザザッ、ザザッ



　　　　　　　　　　　　――ザザッ……




　　　　　　　　　　　　　　　　　「ひどい成績だな」





「なぜレーダーをこれだけ積んでいる？」




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「エンサイクロペディア・フラグメント？」




　　　　「遺跡の情報にアクセスしようとしたのか？」




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　――ザザッ、ザザッ



　　　　　　　　　　　　――ザザッ




　「デバステイター・ユニットに憧れたようです」




　　　　　　　　　　　　　「アセンブルに憧れは大切だ。だがこんな運用では……」




　　　　　　　　　「もとより『下村瘡子E』はひどく外部の情報にナイーブだ」



　　　　「ラジオのように野良の通話やニュースを拾ってくる」



　　　　　　　　　　　　　　　　「超広域探知状態は彼女には早すぎる」




　　　　　　　　　「彼女はまだアセンブルとはなにかをわかっていない」




　　　　　　　　　「ウォーハイドラとはなにかを理屈づけられていない」




　　　　　　　　　「いくら禁忌戦争の英雄に憧れても、
　　　　　　　　　　彼女はまだそこには程遠い……」





　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　――ザザッ、ザザッ

　　　　　　　　　　　　――ザザッ……






毛布を握りしめて眠った。指がそこにあることを確かめたくてそうした。機械が差し込まれた背中の痛みで仰向けに眠ることができなかった。うつ伏せに眠ることもできなかった。寝返りを打てば激痛で死ぬと言い聞かせながら横向きに丸まって眠った。心臓の鼓動に合わせて痛みがずきずきと熱くて、脈拍をひどく憎んだ。イヤホンを耳に突っ込んでボリュームを上げてラジオを聞いていた。歯を食いしばって。ウォーハイドラのニュースを聞いて過ごした。戦争のニュースを聞いて過ごした。そこを駆けているハイドラとライダーたちのことを思う時間を愛していた。ギルデンロウ。ジョット・ノアイ。AI-弐式。ファイブカード。好きなライダーたちはみな脱出装置を手動にしているそうだった。けれど誰ひとり撤退する人はいなかった。命惜しさに怯えて戦場を後にする人はいなかった。クイックドライブで、濃霧領域で、霊魂律動で、バックスタブで、すさまじい機動力で、彼らはそれぞれに死を遠ざけて、華やかな戦場を作り上げて、そうして帰ってきた。彼らは霧に愛されていた。プロフェッショナルだった。ショーを聴くようにそれを聴いていた。ラジオの音量をいっぱいに上げて。手術の痛みをじっと耐えながら。同じ戦場にいつか行けると信じて。

でもそんな時は訪れなかった。戦争は終わった。霧は晴れた。電磁波も消えた。思い出が残像のように消え残った。でもそれはもうここにはないものたちだった。追いかけてもうないと失望するたびに喪失はクリアになった。わたしたちは今でもあの頃のニュースの切れ端を探している。まどろむようなノイズのなかで。


　

生体電池『下村瘡子E』の納められた箱、『三〇三号病室』は出撃しない時、個人のガレージで整備されている。

コロッセオ・レギュレータ社にスポンサードされたガレージは清潔で明るい。

生体電池『下村瘡子E』には二名の整備スタッフがつき、健康状態や電力状態をモニタリングする。

生体電池『下村瘡子E』の整備費を運用する事業主体として、下村によるこの個人ユニオンは運営されている。