ENo.0060　Lupth

普段よりも大幅に遅れて整備と換装を終えたのだが彼女は何事か悩んでいるのかガレージを離れず、愛機をじっと見つめていた。


「ひゅーん」


作業が終わっても一向に動く様子がない彼女を心配したのか単に焦れたのか犬が控えめに甘えた声で鳴くと、彼女がハッとした様子で振り返り、犬を視界に収めると幾分表情を緩める。


「待たせてすまない、狼。……少し迷っていたんだ」

「ひゃぅん？」


先を促すように犬が首を傾げて鳴けば、彼女は一つ頷いて言葉を続ける。


「遅いと思わないか、こいつは。お前と共に駆けた頃とは比べられないほど遅くて、鈍くて。速く走りたくてたまらないんだ、私は」

「あぅん……」


悪い病気が始まった、とでも言いたげに犬が呆れた声音で一声鳴くが、彼女は珍しく目をギラつかせて犬から愛機へと視線を移す。


「お前となら……あの頃のお前とだったらと、そんな考えが何度も浮かぶくらいにはこの機体では物足りない」


犬は処置なしとばかりに首を振るとくるりと反転し、しゃかしゃかとすばやく細かい足取りでガレージを出ていこうとするが、出ていく直前でふわふわの白い背に言葉が飛んできた。


「――だから、エンジンを減らしてブースターを増設しようと思う」


「あﾞぅﾞんﾞ！？」

1LDKの居住空間と簡易ガレージを内包した移動型拠点。
少々角ばったドーム型をしている。



全ての窓や出入り口には過剰なロックが施されているようだ。