ENo.0096　オルト・イスケー

ガレージにオクトロータスの様子を見に来たら──といっても整備の概ねはイェツカさんとか、ミハネさんとかが済ませているんだけど──、珍しくアンフィニちゃんが一人で居た。彼女が許多さん……と一緒に居ないのは珍しい。
彼女は1人でぼんやりバラールを眺めていた。最近は出撃していない、彼女の機体。許多さんが同乗するには小さ過ぎる無人機は、静かにガレージの片隅に収まっている。
もちろん彼女の手がその機体を撫でることは無い。けれど揺らぐ映像の手は、確かにバラールに添えられていた。

「あんまり最近出番ないけど、整備はしっかりしてあげないとだもんね」
「……！ええ、そうですね。大事な瞳さんですから」

突然声をかけられ驚いたのか、こちらを振り向いた。

「心配？」
「…………そうなのかもしれません。兄さんは着いていてくれますが、やはりゾンビさんが何なのかすらわかってませんから」
「そっか」

彼女の本体……？というか、記憶媒体（ﾌﾞﾗｯｸﾎﾞｯｸｽ）もここの所発生しているゾンビに食べられかけたと言っていた。許多さんが対処した、と淡々と言っていたけれど、その恐怖は計り知れない。
霊障なら霊障で多少訳分からなくても納得できるけれど、今目の前にある問題は生身の──ゾンビを生身と言っていいかはともかく──ゾンビ？だし、どうやら残像領域でよくあるものでもないらしい。とここまで来て思い出した。

「オクトロータスにも、不思議な通信が届いてたよ。なんだかアンフィニちゃんを心配してるような」
「え？」
「出処も知れない、ノイズだらけの通信だったけど、何かの警告をしてくれてるみたいな感じのやつ……そっちには来なかった？」
「……」

静かに黙りこまれてしまった。ここらで話題を変えるとしよう。

「そういえばさ、こないだは許多さんに助けられちゃった」
「……？戦場ではままある事なのでしょうけど……」
「まぁ、そうなんだけど。どっちかっていうと戦場以外って感じなのかな。説明するとシンプルなんだけどね」

知り合いのライダーの残像と戦場で会った、とかきっと残像領域ではありふれた出来事なんだろう。多分。

「それは……」
「僕はわかりやすく沈んでたんだ、なんていうか許多さんが声掛けてくれてたおかげで間一髪なんとか、みたいな？」

けらけらと茶化すけど、彼女は俯いたままだ。

「ついでにもう一つ話を聞いてもらえるかた？なんとなく今言っておきたい気分になってさ」
「え？」
「なんで僕がここに居るのか、……いや
そんなに堅苦しい話じゃないんだけど──

「ええと、流れで始まってしまったのですが、そうですね。本社……というか特に開発部が興味を示しまして」
「今後残像領域向けに食品を卸すにあたっての傾向というか、好みといったものをリサーチして欲しいと言われました」
「なのでこちらにありますじっけ……試作品の缶詰も良ければお使いください。そして是非アンケートにもご協力いただければ嬉しいなーなんて」