ENo.0060　Lupth

先日宣言した通りエンジンを一つ減らしブースターを増設する構成での換装。
塗装を済ませたところでローラーを缶の中に投げ込む。首にかけていたタオルで汗を拭いながら彼女が振り返ると低く唸る犬がいた。


「いくら唸っても、もう済ませたからどうにもできないぞ」

「うﾞー」


今回の構成に断固反対らしい犬は唸りながら彼女の足元に近づき、作業着の裾の塗料が付着していない部分を咥えてブンブンと首を振る。
嫌だ嫌だと駄々をこねているようで微笑ましいが、彼女が少しバランスを崩す程度には犬の力は強かった。


「狼、危ないからやめてくれ。……お前がいくら反対しても、戻すつもりはない。頼む、狼。止めないでくれ」

首を振るのをやめた犬がしゃがんだ彼女を見上げる。
お互い何も言わず見つめあっていたが、犬が根負けしたらしい。咥えていた裾を離してちょこんと座る。


「きゅぅん……」


渋々といった様子で頷き一声鳴く。


「ありがとう」


白くふわふわの体に手を伸ばすが、直前で手に塗料がついていることに気づいて止める。

止めたのだが、犬の方からその手にすり寄ったので乾きかけの塗料が白い体を汚してしまった。


「こら、狼。……はぁ。塗料が乾ききる前に洗おう。お前の毛を刈るのは嫌だからな」

「ひゅん！」


自分も嫌だとばかりに犬がしゃかしゃかと早い足さばきで走り出す。
苦笑しつつ彼女もその後に続いてガレージから出て行った。

1LDKの居住空間と簡易ガレージを内包した移動型拠点。
少々角ばったドーム型をしている。



全ての窓や出入り口には過剰なロックが施されているようだ。