ENo.0163　主観するメーテルメテルカ

昨日は泣いてしまった。フレちゃんめ。柄にもなく……というほど、
クールになれないのが私だ。いつまで経っても子供っぽくて、嫌になる。

そんな子供っぽい私を、笑顔で受け入れてくれる人がいた。
残像領域のものではない記憶。上官の人懐っこい笑み。同僚のあの子の呆れ顔。
少しずつ、思い出してきていた。

この戦いが終わるころには、新システムの稼働も始まっているという話だ。
残像領域にいられる時間は、長くはない。

偽りの私だったけれど。
企業の思惑に翻弄されて、酷い目にも遭ったけれども。
それでも、私はこの世界が嫌いになれなかった。

ああ。どうして別れるころになって、その大切さに気付くんだろう。
物語なんかじゃ、よくあることだけれども。
実際にそんな後悔をする羽目になるなんて、さ。

ステュクスのみんな。
モーヴェ君。彼は、立派な船長になってくれるはずだ。もう、子供だなんて呼べないね。
フェティヤ君。広い世界を見てきて欲しい。それから、またいつかモーヴェ君をよろしく。
ブラッド君。結局、彼とはあまり話せなかったのが心残りだ。傷は大丈夫かな。
フレースヴェルカ。……彼女のことは、ずっと忘れない。忘れられない。ちくしょう。
相棒のユナ。私が道に悩んだとき、いつも背中を守ってくれた。
エマニュエルさん。直接は言っていなかったけど──いつも通りクールに任務を終えて、
無事に生きて帰って欲しい。もちろんフィガロ君も警護対象の方も一緒にね。
あと、可愛いえびっこちゃん……えびじゃないってどういうことだったのさ。
いつも戦場で肩を並べた、名前も知らないハイドラライダーたち。
サルガッソーの喧騒。ごみごみした裏路地。
航空カメラで遠目に眺めた、ネオンライト。
マテリアルベルトの気に食わないフルフェイスヘルメット。
無遠慮な研究員たちでさえ、今じゃ懐かしく感じる

今からお別れを、言いに行かなくっちゃならないんだ。

私はアリサ、アリサ・シェンカレフ。
電子の亡霊なんかでは、決してない、別の世界からの旅行者、だから──

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが……無い。何処かへ消えてしまったかのようだ。
ある一人の幽霊が、それについて聞かれるとニヤリと笑う。




「どこだと思う？メテルカならわかんじゃねえかな。」