ENo.0042　ジル・スチュアート

『やけに嬉しそうだな』

「……えっ」

Anubisの不意の一言で、表情を崩した。

本人に自覚はなかったようだが、誰から見てもそれがわかるほどに
少女の口角はあがっていた。

それもそのはずで、シミュレーターではロクな評価を出せなかった少女だが
実戦においてはそれなりの、少なくとも平均よりは上の評価を貰っていた。

「そ、そうかな……？そんなことないと思うけど」

慌てて否定はするものの、表情は伴わない。

「でも、よかった……。私は、戦える。足手まといなんかじゃ、ない」

『……そうだな。やっと落とした肩を上げてくれて嬉しいよ』

その声は若干の機械音のようなノイズを混ぜつつも、とてもやさしく聞こえた。
しかし同時に、安堵の笑みを零す少女に、表情の読み取れない機械の頭部を向けて
Anubisは複雑な気持ちを抱いていた。

『……なぁ』

言いにくそうに零れ出た言葉に、少女は笑顔のまま振り向く。
その表情が、Anubisの複雑な気持ちをより強くさせた。

『……次の戦場のデータが来ている。見るか？』

そう言って、端末の置かれたデスクを指差す。
それは、戦場から戻った少女はまだ目にしていないもの。

いつもと様子が違うAnubisに不思議がりながらも、少女は端末へと近づいた。

そして、端末のモニターに映し出された、その文字は――――


―デバステイター・センチネル≪ΜΕΛΠΟΜΕΝΗ≫―



少女の表情が歪む。
デバステイター―――――領域殲滅兵器。
その名前に、良い思い出など一切なかった。

……可能なら、忘れてしまいたい名前ですらあった。

「…………っ！」

少女はモニターから視線を落とし俯いて、両手で握りこぶしを作ったが
少しの間そのままで居た後、すぐに椅子に座って、端末のモニターへと向き合う。
目まぐるしく様々な画面を映し出すモニターと、真剣な目でそれを追い続ける少女。

「……今度こそ、大丈夫。　大丈夫……だから…………！」

自分に言い聞かせるように呟きながらも、表情は悲しみに暮れているわけではなく。
それでも、微かに震える少女の背中――――
それを、Anubisは何も出来ず、ただ見つめていた。

結局自分に出来ることは、ほとんど何もないのだと理解して。

彼女とのリンクが無ければ、本当の力を発揮することは出来ず。

それはつまり、”あの男”を犠牲にしてしまいかねない可能性となって。

彼女が自身に乗るのであれば、あのとき言われた言葉を無かったことには出来ない。

……自分に出来ることは、ただ―――――――

どちらも死なずに戻れることを、祈ることだけ。

『…………Anubis＜守護者＞、か』

少女から視線を背けて、虚空を見る。


――――何が守護者だ


そう心の中で吐き捨てながら、あの時少女に言われた　言葉を思い出していた。




「一緒に居させてよ、最後の……最期まで」

5年前とあまり変わらない風景。
適度に整理もされており
WHのメンテナンスもしっかりと行われている。

……いつ、”そのとき”がきてもいいように。