ENo.0398　“Neon”

　
「高出力照準装置のひとつも組み込めればよかったんだがな」

傍らから、聞き慣れた声がそう呟く。
すぐ近くからのはずなのに、ずっと遠くから響くような。

「霊魂律動と機動力の確保を考えると……いずれ他に軽くできそうなパーツがあれば──」

頬だけでなく、耳の後ろから首にかけて──全身が熱い。
たぶん今、アウラの顔は、見るからに紅潮しているだろう。

「…………おい。聞いてるか？」
「聞いてる……」
「……………………」

ホントかよ、と言わんげな沈黙。
けれど、そんなものにかかずらっている暇はない。

はしごを上った先、壁に据え付けられた足場。作業スペースの上に立ち。
そこから更に、思いきり顔を上向けて──
──アウラは今、“Neon”の背に取り付けられた、狙撃砲を見つめている。


「……当てるのは自分で頑張る！」
「あっちはアホほど速いぞ。空振っても泣くなよ」

返る軽口に あら、と声を上げる。
……そこでようやく、隣の彼に向き直った。

「それくらいで泣くタマだと思ってる？」
「…………、」

お馴染みのため息。
半ば瞼を落としたその表情が、声に出さないまま『全くこいつは』と語っている。

「思わねえな。諦めないせいで俺のほうが泣く羽目になりそうだ」
「ふふー」

貶すようなその文句も、アウラにとっては褒め言葉だ。
にっこりと微笑んで、


「───ありがと、グラン！」

どーん、と勢いよく抱きついた。

うどわっ、と上擦った声。
いきなりのことに不意を打たれたか、よたついた青年の背が、金属の手すりに触れてのけぞる。

「っ……ぶねえな！！　急に飛びついてくんな、バカ！」

親愛のハグに、投げつけられたのはデコピンだった。
いったーい、と思わず漏らすも、場所を考えろ、と手厳しい言葉が返るのみ。

もちろん、この足場も手すりも、それくらいで落ちるようなやわな作りではないが。
彼の言う通り、危険な行為であるのは事実だ。


「ごめんなさーい」

悪いのはこちらだ。まずはそう謝罪を述べて。
……けれどどうにもにやついてしまうのは、できればお許し願いたいものだ。

「約束。守ってくれて、ありがとう！」
「…………」

ただ速くするだけではなくて、火器にはこちらの意図も汲んで。
どうせならお互いに楽しもう──と。

いつか願ったその言葉の、これは明確な体現だ。


「次の出撃、頑張りましょうね。“Neon”も一緒に！」

名を呼ばれたのがわかったか、耳を模した機体のセンサーがぴくり、と揺れて。
わう、と応えるように犬が鳴く。

やれやれ、と天を仰ぐ青年の胸に、上機嫌で額を押し当てた。

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