ENo.0253　棺桶は歌う

まだこの項目にはテキストがありません。
入力権限を持つ職員は、調査委員会より発行されたパスコードを入力してから文章を入力してください。

なお、本項は対象の特性により音声ファイルの使用は禁止されています。
詳しくは事故報告書(B139844)を確認してください。














しくじった、しくじった、しくじった！！
どこから俺は間違っていた。いったいどこから？
わかるはずがないだろう。アイツに自我と知性が宿るだなんて。

アイツはただの、ＷＨの回収機、ただの棺桶だったはずだ。運悪く不発弾の暴発に巻き込まれて、レーダーと発信機能がイカれたせいで森の中に消えてしまっただけの。

残像でもなんでもないヤツに。いったいどうして。
ああ、それとも霊でも宿ったとでもいうのか？　これだけ大勢の人間がくたばって、大勢のＷＨがぶっ壊れてる中で、ＷＨでもなんでもない、ただの棺桶にガキの霊が宿ったってのか？
ＷＨのパーツをツギハギできる能力を引っさげて？

ああ、ちくしょう、何もかもが悪い夢のようだ。
オマエはいったい何なんだ。
何度ぶっ壊れても当たり前みたいに霧の中からやって来やがって。
ぶっ壊れたオマエのパーツを、俺が何度粉々にしたと思ってやがる。
機銃の雨に晒しても、プレス機でぺちゃんこにしても、溶鉱炉にブチ込んでも、強酸で溶かしても、異次元に送り込んでも、アイツは霧の中からやって来る。
あの歌声と共に。あの車輪の音と共に。


…………歌声？
…………歌…？


（Log：日誌確認）
（Log：聞き取り＞ALL）


……やっぱりだ。破壊されてから次に現れる時まで、アイツは歌を歌っていなくて。
必ず、歌が聞こえてから霧の中から現れている。
まさかアイツは。棺桶じゃなくって。
あの歌が本体だってのか？
俺達が本体だと思ってたのは、ただのスピーカーだってのか？

いや。いや、そもそも。これは本当に歌なのか？
俺は歌を聞いている。
でも、一度も、レーダーは音の波長を感じ取れなかった。
人間は耳で歌を聞いてるわけじゃない。
鼓膜が震えて、その情報が脳に伝わり、音として認識する。
つまり俺達はアタマで歌を聞いている。
…つまり、この歌はアタマの中に直接響いてたって事じゃないのか？
何かが。得体の知れない何かが、脳に電気信号を流して鼓膜を震わせずに、歌が聞こえると誤認させたんじゃないのか？

突拍子もない説だが、そうだとすれば辻褄が合うんだ。
アイツがなんでそんな事をしたのかが分かる。
やつは俺達に聞いてほしかったんだ。
聞いて、覚えてほしかった。歌を聞いた連中のアタマの中に、歌を。

アイツは生ける屍じゃない。
生物だったんだ。
アイツがしていたのは生物として当然の行動だ。
ただ種を増やすために。
あの歌は俺達を使っての繁殖行為だったんだ。

アイツは、戦場でずっと歌を歌っていた。
ずっと。ずっとだ。休むことなく。ずっと。
あの歌を、今まで何人が聞いた？
あの歌が、今、何人のアタマの中に入っている？

――アイツは、今、どれだけ増えたんだ？


……ああ。ダメだ。
気付いてしまった。分かってしまった。
気付いたらいけなかったのに。

俺の頭の中にいるアイツが俺を見ている。
アイツが、俺をじっと見ているんだ。
無邪気に笑いながら、じいっと。

もう逃げられない。








「あなたも　みたよね？」
「だいじょうぶ　なにも　しないよ」
「それより　わたしと　おともだちに　なろう」

「わたし　あなたのこと　なんでも　しってるよ」
「わたし　あなたと　ずっと　いっしょに　いられるよ」
「わたし　あなたが　しんだあとも　おともだちに　なれるよ　だから」


「友達になろうよ」

個人用。ひたすら反応を上げるユニオンです。