ENo.0440　ヴィラカティ

一週間の殆どをハイドラの中で過ごすというのは、
想像していた以上に、退屈に困らなかった。

というのも、遺跡が崩壊を始めたのだ。
ニュースでやっているから、ヴィラカティも知っている。
一時は大隊に緊張が走ったが、契約ライダーたちはすぐに下された追撃命令に従った。

ヴィラカティは繊細な性格ではないから、一日風呂に入らなくても困りはしない。
（それでも思い出したように２日か３日に一度、湯タオルで体を拭くくらいはした）

トマスや、整備工場の人々は無事だろうか？
心配事はそれくらいだった。


ヴィラカティが知らないだけで、世界は娯楽で溢れている。
ハイドラの中のホログラムで映画も観れれば音楽も流せる。
休暇中にだけ使える、限定的なシステムだが……

静かな森で一人、敵を待つことに慣れているマキナ・エルフとしては
時間の流れが些細なことでも、ハイドラの中で長い夢を見続けているような気持ちだった。
映像には、いつかの、誰かの戦いが、涙が、笑顔が、つい昨日の出来事ように記録されていた。
きっとそれは誰かの記憶だった。


「…トマスが生き残ってくれたら」

「わたしのことを語ってくれるかしら」


未練はない。
胸を焦がす思いを追いかけて、今ここにいる。
ヴィラカティに思い残すことも、悔いも何もない。
それでも、二度と帰れない場所にいる誰かの記憶に残れるのなら
それがきっと命のしるしになるのだろう。

ヴィラカティは満足していた。
今ここにいることに、満足していた。

「霧の先へ行こう」