ENo.0130　かもめの亡霊『モーヴェ』

なんか急に通信送ってきたオッサンがいたから挨拶したけど、よく考えたらすっげー失礼だった（ただし、両方ともだ。例えあの人がオレの父親とおんなじくらいの年齢に見えたとしても。）

『霊場』。ノイズのかかった声で歌い、霊障で人を惑わし殺す、地元で言えばセイレーンみたいな敵機。
不可思議なノイズ、見えない手、誰とも分からない声を恐れ、その敵機が強いかどうかは関係なしに近づきたがらないハイドラライダーも少なくない…って霧の噂で聞いてる。
残像も「不可思議なもの」の一つだ。死んだはずの……
死んだはずの人と、砕けて燃えたはずのハイドラが、霧のスクリーンに現れて、あの頃と全く同じように戦場を駆けて敵をスクラップにして消える。
時々二機も三機も現れたりして人に迷惑をかける、とかなんとか。


「……オレは違う」


オレはそういうものじゃない。と、自分じゃ思ってる。他の人がどうだかは、フェティヤに対してすら知らない。

まずオレには『適性』が無い。霊障にはむしろ、ハイドラを振り回される側の人間（もとい、半人外）だ。バイオ兵器も…どちらかっていうとキライ。
ノイズも電磁波も出てるっぽい。だけどオレは意識して霊障を出すとかそんな事はやったことも無え…彼女《サラミス》にも外部バッテリーがついているから、粒子を纏った攻撃を繰り出すのに忙しくてそんなの無理だろうし、出た所で弾が尽きちまったのか…って思うのが先だし。

そもそも何だよ。霊障だろうが狙撃砲だろうが硬質ダガーだろうが焼夷機関砲でも何でも、当たったら死ぬだろ。


じゃあ、残像はどうなんだって？死者の影が戦場に現れるあれは？絶対違う。アレになるくらいなら500回でも死んでやる。オレが残像と同じっていうなら会わせてくれても良かったんだぜ、クソ兄貴に。
今はもう残像じゃないし、どっか密林の下でハムスターとか飼ってんだろうけど…

残像のメーヴェは、どこに行こうとそこを「初めてのコロッセオの舞台」と信じてやまなかった。そして、そこには居ない「弟」に永遠に話しかけてやがった。多分殴っても、あの時喋ったことをそっくりそのまま返す。
殺したとしても、きっといらえはない。


残像に意思はない。霊障にも、恐らくは。

オレがそういうやつと決定的に違うのは、オレは自分の意思で考えて、行動して、んで戦果の低さに落胆したりメシ作ったりしてる所だ。
海の国で死んだオレは根本的にシステムが違う。幽霊の存在証明、以上だ。

…って説明して、納得する奴が何人いることか。

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが一機。
ある一人の幽霊が、そこで暮らしているのだ。


「分かった。オレ、料理下手じゃないんだ。

雑なんだな」