ENo.0398　“Neon”

　
「うわ！　もっと速くなってる！」

スクリーンに表示されたデータを見て素っ頓狂な声を上げる少女に、澄まし顔でグランは頷く。

「超加速の衝撃が４回になる計算」
「うわあ……」

気の抜けたような声を受けて、む、と知らず片眉が跳ねたことに、グラン自身も気づいてはいない。
表情は薄くわかりにくいが、見えづらいだけで人並みの情動は持ち合わせている。

「っふ、ふふ……つまり、もっと弾が当たりやすくなってもっと走り回れる、わけね」
「………」
「最っっっ高！　こないだの戦場、本当に気分よかったもの」

返ってきた返事と、輝かんばかりの笑顔。
グランとは逆に、アウラの感情は大変にわかりやすい。
楽しければ明るく笑い、腹を立てればむくれてみせる。
始めはくるくると移り変わる秋の空を、面倒だとも思ったものだが。

静かに瞼を伏せてみせるこちらをどう捉えたものか。
機嫌よく髪を指先で弄んでいた少女が、にっこり笑って口を開く。


「初対面の時は、なんて付き合いにくい人かしらって思ったものだけど」
「───は？」

こちらの心を読んだかのような言葉に、思わず声が上げる。
それに動じることもなく、少女はにこりと笑みを深めた。

「皮肉っぽいこと言うわりに意外と素直だし、ちゃんと人の話は聞いてくれるし。無愛想で不器用なのは否めないけど」
「………」
「あ。またご機嫌斜め」

ふふ、と軽やかに声を漏らして、アウラはそう指摘してみせる。
それで本当にこちらが気分を害することなどないと、知っているかのように。

「……ねえ、あたしここが好きよ。トゥーロラと遊ぶのも、フランのおちゃめさも、ニッシュのまっすぐなところも。“Neon”はとってもいい子だし」

指折り数え、まっすぐにこちらを見上げて。少女は微笑んでいる。


「あなたの不器用なところも、好き。配属されたのがここでよかった」
「………恥ずかしいやつ……」
「あら。思ったことを言えないほうがよっぽど恥ずかしいと思うわ」

くすくす、とまた軽い笑み。
そのままくるりと、彼女は踵を返した。

「アセンはそれでいいと思う。トゥーロラと約束があるの。またね、グラン」
「…………」

ピンク色のメッシュがふわりとなびく。
その鮮やかな色が廊下の角へと消えるまでに、そう時間はかからなかった。

はあ、と大きく息をつく。
そのため息にも、本当に。すっかり慣れ切ってしまった。

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