ENo.0022　アグロヴァル・エッフェンベルグ

「……ん？ これは……」

そう、それは拠点内で残像領域内の反応スキャンをしていた時だった。
これはどこの勢力のキャンプ地……いや、それからも外れているかも知れない。
それでも、そこである反応をキャッチしたのだ。

「……カッツェ」
『なぁに、ご主人』

ふよふよと周囲を漂っていた白い靄のような獣に声を掛ける。
ほんのりと実体に戻った精霊は、ぴこぴこと耳を揺らしながら続く指示を待つ。

「残像領域内で、カナエ君やソーナちゃん達と似たような感じの波長の反応があったんだ。
　僕はハイドラの調整をする時間をもう少し多く取りたいから、君に先行調査を頼みたいんだけど……」
『……危なくない？』
「戦闘領域に突っ込まない限りは大丈夫……と言うか、今回の目的は北だから大丈夫な筈なんだけど」
『……わかった、帰ったらちゃんとおやつをくれるならやる』
「ん、分かった。 向かう前にシフォンケーキでも焼いておこうか」

『やった！』と喜んですり寄って来る現金な猫のような精霊を撫でる。
少しの間撫でていると満足したのか、黒猫のボディの中に納まる。
……この精霊は雷の精霊だが、平時の姿は霧状に近い。
この世界の霧と電磁波で霧散してしまわないようにの、特別策だった。

「それじゃあカッツェ、今からボディ内のデータベースに座標とスキャン情報を転送するから、頼んだよ」
『まかせて！』

得意げに尻尾を揺らし、拠点を後にした黒猫(のような何か)はさて、きちんと辿り着けるだろうか……。
猫の足には少し、遠かったかも知れない……と、そんな事を思ったのは2時間後の話。

正式名称は『フラーレス(F) ワールド(W) アドベンチャラー(A)』である。
『フラーレス世界旅団』と言う別称もあるが、特にどっちで呼べと言う事はない模様。

とある世界にて、世界間の移動を自由に行う方法を確立させた人物が、
己の探求心・知識欲を満たす為に作りだした個人的秘密組織。
構成員は設立者を含め5人ほどと規模は小さいが、あくまで趣味の範囲なのでその程度で良いらしい。

組織の正式な構成員には、設立者の部下として様々な世界の調査を命じられる……と言うと堅苦しいが、
特に調査の期日等は存在せず、自由に旅して良い位の緩さである。
調査する手が足りないと言うのであれば、派遣された構成員が現地で手伝ってくれる者をバイト感覚で雇う事も認められている。

定期的、不定期に関わらず専用の端末でデータ送信をすればある程度の収入が約束され、
活動拠点としてどんな世界からでもアクセス可能な部屋を支給される。 ホワイトだね！(？)

余談ではあるが、
『組織名？ 万が一所属を聞かれた時名乗るのに必要だから作っただけで、通称は略称で文字数少ない方にしただけよ』
とは設立者の弁。

今回の戦場でも面白そうな事になる気配がした為、バイト感覚で来てくれた人に対しても可能な限りのバックアップを約束している。
具体的に言うと、この残像領域の調査時には多少広い程度の居住空間と、不自由ない程度の食糧(主に食材)が提供される。
……料理が出来ない人はどうするか？ 支部長(仮)のアグリオ(22)にでもたかりに行くと良いよ！！