ENo.0146　フレースヴェルカ

どうしても届かないものに手を伸ばした。

それが元からそこに何も無いと気づいたとしても。

無駄になるという事を認められないから。

つかんだとしても、それが求めている物ではないというのに。



相変わらず、整備場はうるさかった。
また、何人ものハイドラライダーが姿を消したらしい。
しかも、歴戦のライダーも混ざっていたという噂だった。
わたしは知らないけど、戦場から突然姿を消したとか。
実際は本当に知らないんだけどね。

とはいえ。とはいえ。

今、調べたいのはそこじゃない。それも知りたいけど、そうじゃ無い。
どうすれば調べられるか、についてはわからないけど。
そこについて、知らべるしかなかった。


「…コンソール開くの初めてなんだよなぁ」


データベースを開く。少なくとも、彼女がよくわからない事を言っていた。
ずっと近くで見ていた。そう言っていた。なら。
そのための通信回線か、機材がのっているはず。
それがどこかに接続されているはず、だから。詳しくないけど。
武装や部品の接続に関してはすぐにアクセスできるところにあった。
整備の人がある程度動かしやすいようにしてあるらしい。
だから、他のもあると。そう、思っていた。


「…………みつかんない」


何も見つからない。わからない接続の仕方をしているとか、そういうわけじゃなくて。
余計なデータみたいなものも見た感じ無かった。謎のデータとかそういうのも。
限界まで接続も最小限にして、代わりに高速制御をしている。
まさに『九つの頭を持つ龍』を現すように。
だからか、余剰データというよりは計算用の空きデータがほとんどだった。
一時的に格納するための領域、みたいなやつ。空き倉庫とかそんな感じ。

詳しくないけど、多分見つからないんだろうって直感がいっていた。
だから、おとなしく操縦棺から出た。いっそ整備してる人に聞いた方が早い。
今聞くのは躊躇われるけど。後で。そのうち。聞こう。

床に降り立つ。


「お目当ての物は見つかりましたか」


彼女が其処に居た。

改めてみる。金色の髪、青い瞳。私と同じ姿をしている。
違うのは体形とか、身長とか。その程度だったし。声もなんとなく似てる。
細部は違うというか、大人びた声ではあるけど。


「見つからない」
「そうですか。残念です。生きるために必要であるなら、それは見つかるべきなのですが」
「……嘘ついてないよね」


わたしは彼女にそう言った。


「つく理由が無いですよ」


わたしの言葉をどうとらえたかはわからないけど。
彼女は、確かにそう言った。

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが一機。
ある一人の幽霊が、そこで暮らしているのだ。


「分かった。オレ、料理下手じゃないんだ。

雑なんだな」