ENo.0166　ステラ＝アレグレット

ステラの腕の緊急メンテナンスから数日後。
今のところ、彼女は腕に違和感を覚えることもなく、いつも通り生活している。


「じゃあ、ちょっと買い出しに行ってくるよ」


そう言ってステラは出て行った。
前回の戦闘ではアセンブルに組み込んでいた新パーツが動作不良を起こし、仕方なく仮設脚部で戦闘に出たのだが……
結果は言うまでもなく、散々であった。
今回はその反省をいかし、予備のパーツもある程度のパフォーマンスが望めるものを……ということで多めに材料を買っておくということになったのだが
正直、資金繰りが厳しい。
義肢の代金の支払いは実験データだけでいいので、ハイドラライダーとしての賃金はそのまま手取りにはなるのだが
そもそも彼女はライダーではなく、技師だ。
戦果で収入が左右する環境で、彼女の収入は決して良い方ではないのだ。
それ自体をとやかく言うつもりはないが、パーツ代だけで資金を使い切ってしまう勢いでは生活が成り立たない。
一応、彼女の補佐を担当しているのだから、なんとかしなくては……


「ただいまー！」


ドアが勢い良く開く。
……もうそんな時間？

チラリと時計を見る。
……いや、早い。
何かがおかしい……気がする。


「おかえり。目当てのパーツは買えたの？」
「勿論！ちょっと運ぶの手伝って貰えるかな？」


と、呼ばれて出て行ったはいいのだが……


「……なに、これ」
「何…って、次のパーツ用の素材だけど？」
「いやいや、明らかにおかしいでしょうが。
　何？　この軽量化素材の山は？　次元潜航でもするつもり？」
「おー、流石ベア、素材だけでよくわかったね」
「は？　私、精密飛行の話しか聞いてないんだけど？」
「いやー、マーケット見てたら材料が揃ってたから、つい…ね？」


軽い眩暈を覚える。
さっきまで資金繰りを心配していたら、これだ。
昔っから衝動買いなんかは少なくなかったが……
この、今の状況で……


「……いくら？」
「いくら……て？」
「………」


ステラの服に手を突っ込んで、ポケットを探る。
彼女は変な声をあげて抗議を唱えるが、知ったことではない。
買い出し費用がいくらかかるかわからないと前回の収入全部持って行っていたハズだが……


「貴女ね！一銭も残ってないじゃない！」
「いや、丁度足りたんだって」
「あーもう！貴女もう買い出し禁止！財布も私が管理するわ！」
「え～そんな～～～！」
「え～じゃない！」


思わず溜息が出る。
ホントに、この女はどうやって今まで生きてこれたんだろう？

いや、しかしこれは光明でもある。
彼女の無駄遣いをやめさせれば資金繰りも多少はなんとかなるのではないか？