ENo.0053　ローデット・ダイス

機会は突然やってくる――


いつもの日課、タブレットで何か変わったことがないか
ニュースやオークション、その他さまざまな情報を確認すると何かを見つけた。
目を見開いて、その画面を暫く眺めたまま固まっていた。
いや、でも、これは何度見たって……

バタンと大きな音を立て扉が開くとバルトがこちらを振り向く
また誰かが狙ってきたのかと警戒しながら。
だが、焦ってはいたが、いつもとは違った様子だということに気付く。


「どうした！？」

「……バルト」

「何があった」


恐る恐る、タブレットをバルトに見せる。
それは裏世界のニュース、眼を売られているかなどもここで確認していた。
そこで今回は人が売られていた、ご丁寧にオークションの期日まで書いてある。
女性、賽の眼、少し歳が上の方の、銀髪の女性。
どこかに面影があった。


「……母さん、だ」

「……見間違え、じゃねえンだな」

「間違えるもんか……年数経ってても分かる」


今までこういった風な人が売られているものは見てきた。
けれど、助けられないから諦めるしかなかった、それしかできなかった。
今回も諦めるしかすることはない、それが知らない人であったなら。


「バルト……」

「おう」

「助けたい……助けたいのに囮だって分かるし、振り払う力が自分にない……」

「おう」


目尻に涙を溜めながらか細い声で呟いた。


「助けて、くれ……」

「最初から頼れ、お前は全くよう！」



◆　◆　◆　◆　◆



『フィネデルシェロ』
転移許容していた場合、撤退時に時空震を誘発させ、別の時空へと旅立たせる
シルウェストリス航空の時空解析ではこのようなこともできるらしい。
このシステムを解析できたなら、バルトは元に戻せるのだろうか。
いや、バルトのことだけではない。
故郷の人達を、例えば全く違う世界へと飛ばしたりすることも可能なのだろうか。
もし、安全だと分かる世界がどこかにあるとすれば
このシステムを上手く使って、安全などこかへ導けないか。
とはいえ、『安全な世界』なんて何処にあるか分からないし、
今の狙われるような立場の私に導けるような立場なんてないけれども。
ただ、解析だけは進めていこう――

それは地中に出来た、真っ直ぐに伸びる洞窟のような空間だ。

一つ明かりを付けたのなら、きっと貴方はそれが人工のトンネルのようなものだと気付くだろう……そう、丁度中型のハイドラが通るほどの。

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