ENo.0201　水槽の脳髄

「なんだか今日はずいぶん気合が入ってますね。こんなにやる気のあるノウさんを見たのは初めてですよ」
《あーん？　何言ってんの、俺はいつでもやる気満々じゃん》
「何でもないのに訓練セットを追加したりする具体的な行動は初めてですね。
　とても頼もしい良い傾向ですが、くれぐれも疲労をためないように適度なところで休んでくださいね」
《はいよー。まあその辺はちゃんと考えとくからさ》
「しかしなぜ急に？　セクション攻略が進む中で、何か心境に変化でもありましたか？」
《おう。ポチはたぶん俺の宿命のライバルってやつなんだよ。
　そいつが強くなって出てくるなら俺も強くならないと駄目じゃん？》
「…………。
　えーと、ずいぶん話が飛躍しましたね。どうしてそう思ったのかきっかけから聞かせてくれませんか？」
《あいつもたぶん専用なんだよ、俺と同じようにさ。
　あんなごっつい機体、俺と同じくらい専用に調整しないと動かせたモンじゃなさそうじゃん？
　そんで俺がハイドラで動いて戦果挙げんのが好きで動いてんのと同じように、あいつは世界を守るってんで動いてる。
　それがさあ、今こうしてガチで戦ってんのよ？　これはもう宿命ってやつだね》
「……その言葉はどこで覚えてきたんですか？」
《えー、いっぱい俺に見せたじゃん。戦うロボットアニメコレクション》
「流石にアニメの見過ぎですよ。そこまで本気にするとは思ってませんでしたし」
《なんだよー、撃墜映像コレクションもそうだけど目的が全然わかんねえよ！
　こっちが見入ったらそういうこと言うし、真剣に見ないと怒るしさあ》
「その辺のバランスって難しいんですよ。みんなそれで苦労しているんです」
《問い詰めるとそうやって逃げるし》
「だいぶノウさんにも僕の考えてることがわかってきましたね」
《お前とこうやってずっと話してりゃ、そりゃ慣れてくるよ！》
「……でもまあ、意欲的な訓練はとてもいいことです。
　その調子で、人型義体二脚の練習も少しずつしていきましょうね」
《ゲッ！　疲れるから適度に休めって言ったばっかじゃん！》
「規定訓練のうちに入ってますから、こっちの方が優先です。自由訓練はノウさんの趣味の範囲というか、余暇の過ごし方のひとつですからね」
《チッ……　へいへい、わーったよ》
「まだ意欲に波があるのはよくない点ですね……
　ところで」
《ん？　何？》
「デバステイター・センチネルをライバル視するのは結構ですし、まあやる気が出るならその見方に水は差しませんが。
　あの『世界を救う』ってノウさんはどれくらい信じてるんですか？」
《いやまったく。俺世界とかどうでもいいんだよな。ポチが向かってくりゃそれでいいや》
「……ノウさん、ロボアニメで言うと考え方が完全に悪役ですよね。ついでに見た目も」
《うるせえな！　誰が楽しみを求めて身体を脳だけにして生きてる悪の大総帥だ！！》
「僕以上にテンプレを分かってて今すごくびっくりしてます」

生体脳使用ハイドラ『オーヴァルック』のサポート専門チームの待機所。
『オーヴァルック』帰投時は機体と生体脳の保全を行い、出撃時は戦果査定用の戦闘中継を見ながら手に汗握り、時には野次も飛ばす。