ENo.0060　Lupth

ビリ、と紙が破れる音がした。
特別大きな音ではないが一人と一匹が無言で過ごす空間は静かだったので、嫌によく響いた。

犬が責めるように鳴くと音を立ててしまった彼女がすまないと詫びる。
彼女が手にしていたのは紙を束ねて止め冊子のようにしたものだ。全て一文字も書かれていない白紙なのでメモ書き用の束のほうが適切かもしれない。


「ひゅーん？」

「ああ、この義手は少しだけ力が強いらしい。今まで通り扱おうとするとこの有様だ。操縦にも支障が出るから早く慣れたいんだが」


義手を替えるなんて何年振りだろうか…と零しながら数回手を握っては開いてみて、深呼吸をしてから何気ない動作で紙を捲る。

び、と若干破れたが端に少し切れ目が入った程度で、先程よりは格段にマシだ。
尤も、彼女は明らかに不満の表情を浮かべているが。


「この調子では出撃までには間に合わないかもしれないな」

「ひゃん？　ひゃん、ひゃいん！」


犬が鳴いて跳ね回り発破をかけるが、彼女の反応は芳しくない。

大きなため息を吐き、できるだけ感覚を掴むために再び紙束を捲る作業に戻るのだった。

1LDKの居住空間と簡易ガレージを内包した移動型拠点。
少々角ばったドーム型をしている。



全ての窓や出入り口には過剰なロックが施されているようだ。