ENo.0060　Lupth

重プラズマ砲の直撃でところどころ焦げて、融けて、操縦棺には大穴が開いてしまった機体がガレージに運び込まれる。
今回も本人の希望でライダーの状態確認もされず、戦場で動かなくなった時点のままだ。

業者が引き上げると出撃直後に帰されていた犬がひょこひょことやってきて、無残な機体を見上げる。


「ひゃんっ」


気の抜けた一鳴きの後、以前撃墜されたときと同じくジジ、と電子音に似た不快な音と同時ガレージ内の空間にノイズが走る。

不規則にノイズが走り、数秒で晴れる。
少しずつ周期が短くなり密度も上がり、最後には不快な音とノイズにガレージが満たされた。




………
……
…




前回とは違い、すぐに不快な音は遠のきノイズが晴れていく。


「ひゃいん！」


ハイドラの足元に蹲る彼女は無傷ではなく義手である右腕がだらりと下がって動かず、複数の切り傷や操縦棺の破片が太ももに突き刺さっていたりと酷く負傷していた。


「狼……」

「ひゅーん…」


ぐったりと俯いていた顔を僅かに上げ犬へと向けるが、力の宿らない瞳はぼんやりと焦点が合わない。
疲弊した様子の彼女に呼ばれた犬は構わず煤や血で汚れた体に真っ白な体を擦り付け、甘えたような声で鳴いた。


「進んだのか、私は…。あの時…プラズマ砲を食らった瞬間、何かを考えていたはずなんだ……」


左腕で頭を押さえ、呻くように言葉を絞り出す。


「何かを考えて、意識が逸れて……。いや、違う…。食らう寸前、何かを……」

「ひゃん！」


負傷を放置して思考に没頭する彼女を叱るように犬が大きく一つ鳴くと、上着の裾に噛み付いてグイグイと引く。


「…わかってる。わかってるが、仕方ないだろう。考えずにはいられないんだ」

「きゅーん…」


困ったようにか細く鳴く犬に、心配かけて悪かったと詫び、白いふわふわの毛並みを乱さない程度に撫でる。

ぱんっと軽く音がなる程度の力で自身の頬を叩き、一つ深呼吸をすると暈けていた表情が少しだけだが引き締まった。


「お前の言う通り、センチネルの攻撃による影響もあるだろう。私もおかしいと思ってる」

「ひゃん」

「ああ。手当てを済ませたら、大人しく休むさ。……さて、予備の義手はどこだったか…」


よろけながら立ち上がると、指一つ動かない義手をぷらぷらと揺らしながら歩き出す。

犬は元気よく鳴いてから彼女を先導するように走り出した。




義手の交換に始まり、切り傷や破片の刺さった傷など、医者に任せるべきだろう処置を全て自身の手で行い、たった数日の静養だけで彼女は日常生活へと戻っていた。

1LDKの居住空間と簡易ガレージを内包した移動型拠点。
少々角ばったドーム型をしている。



全ての窓や出入り口には過剰なロックが施されているようだ。