ENo.0005　パアム・ライザ

　コツ、コツ、と静かなガレージに、パアムの義足が地面を穿つ音が響く。彼女が近づくと、二足のハイドラが膝立ちになり、胸部装甲が開いて、パイロットを迎え入れる形となった。
　ひょいとよじ登り、コックピットへと収まると、装甲が閉じ、室内灯が点灯する。四肢を定位置に収めると、四肢と体幹に、ゆるく筋繊維が巻き付き、柔く、露出したパアムの体を固定する。
　彼女の姿は、扇情的といっても差し支えはなかった。ブラックアウトを避けるため、大腿部から局部、体幹部を締め付けるように設計されたスーツは、彼女の肢体を否が応でもはっきりと形取る。

「……最初は結構恥ずかしかった筈なんですけどねえ」

　慣れとは恐ろしい物で、時々、この格好のまま他のハイドラライダーの前に出そうになることがある。というか何回かなった。知り合いが女性ばかりで助かったが、いつか男性の前にこのまま出そうで困る。

　しかし、これがなければ高機動の機体、特に飛行ユニットと脚部ブースターによる急制動に身体がついていけないだろう。如何にパアムの身体が強化されたもの<エンハンスド>だったとしても、だ。
　それこそ、数年前に嫌と言うほど思い知ったのだ。クイックドライブは生身で使うような物ではない。1度や2度、使えれば良い機能ではあったが、身体の負担を考えても、それが限界だった。

　だから、元の世界ではパイロットを急制動から守るよう、相応の手立てが取られた。それがこのスーツであり、そしてもう一つ。

　すう、と息を吸い込み、備える。コレは、何度やっても慣れないからだ。
　コックピットの壁から、液体が染み出してくる。と同時に、コックピットが膨れ上がり、パアムの身体は、身動きがほとんど取れなくなった。
　やがて、頭部以外がすっぽりと覆われると、液体も顔の上まで上がり、やがて液体が肺を満たした。

　高濃度酸素水だ。医療用にも用いられる、液体で酸素交換を可能とする液体、これが衝撃対策の一環である。膨れた空気の膜で音波などの衝撃を、満たされた液体で物理的な衝撃やGを和らげる。

　更にもう一つ、空気だけでは駄目な理由があった。

　真紅に染まった、彼女の髪の毛がゆらりと液体に浮かび、やがてそれは、コックピットの壁面へとつながって、一体となった。
　パアムの全身には、寄生体があった。それはプレディと言う名の群体の人工筋肉であり、機体の根幹であり、彼女の義肢を操作するための彼女の手足であり、そして今は、機体と彼女をつなぐケーブルの役割を果たしている。
　彼女が、今も彼の国から秘匿し、そして密かに機体の中に忍ばせた「彼」は、今、彼女と数時間ぶりに一つとなった。

「腹が減った」

「開口一番それですか……」

　普段は最低限の意識をパアムの四肢、そして脊髄から伸びる赤い髪の毛に忍ばせているプレディだったが、本体は機体の中だ。
　そして、待機中はずっと待っているだけで、食べる物といえば燃料や周囲にやってくる虫くらいなのだから、腹は減るだろうとは思う。

「まあ、良いです。お腹が減ってるならその分ハングリー精神旺盛でしょう。」

　液体に揺られながら、閉じている薄目を開ける。眼球には肉のコックピットが映るだけだが、脊髄から伸びるケーブルが、彼女の脳へ外部の映像を送り込む。
　彼女の腕はピクリとも動かない。代わりに、機体の腕が地を支え、体制を立て直し、二足で大地へ立つ。

　視界に広がる、数メートル上の視線。マニピュレーター/問題なし。各部関節/異常なし。アイカメラ……64の内、2に異常/優先度低チェック項目。武装/新規武装、異常なし。飛行ユニット/最適。エンジン/甘い匂い。なんで？


　視線を前に。ガレージの戸を開け、発進する。

「さあ、行きましょうプレディ。……いや、グルトニーでしたね、このときは」

　――――好きなだけ、美味しく頂きましょう？

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それは大きな倉庫。―――ただし外部から何か引きちぎられたような跡がそこかしこに見て取れます。

外からひとまずの補修がされており、ハイドラの整備施設などが備え付けられているようです。

また、倉庫の脇には、油臭いパイプベッドが備え付けられたバラックが存在しており、時折、珈琲の香りが漂ってきます。
「……もうちょっと居住性高めましょうか。」



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・射撃特価ユニオンです。

・一応参加自由ですです。