ENo.0166　ステラ＝アレグレット

「いや～……ははは、ごめんごめん、心配かけちゃったね」


目を覚ました彼女は、いつもの調子で笑ってみせる。
心配したのは事実だが、彼女が何を謝る必要があるのだろう？
原因は恐らく私の作った義肢にあるのだろうし、彼女に非は全くないのだが……

ともかく、何が起きたのかはしっかりと把握出来ているらしい。
謝りながらも、バツが悪そうに私から目を逸らす。
恐らく、これから私がする話もおおよそ予想がついていて
その展開もまた、ある程度予想がついているのだろう。

そして、それは私も同じこと。
正直、全く気が進まない。
それでも、そろそろ誤魔化していくのも無理があるのだろうし
彼女にとっても想定の内だと言うのであれば、そろそろケジメのつけ時だということなのだろう。


「……貴女が倒れている間に義肢のメンテナンスもしておいたわ」


彼女は私から目を逸らしたまま、話を聞いている。


「義肢に異常は見つからなかった。……その意味は、前にも話したわね？」

「……」

「……私の言いたいことがわかっているようだから、遠慮なく言わせて貰うわ。
　ステラ、この義肢は諦めましょう。勿論、ハイドラライダーも……」

「……」

「この状況にあって、問題解決の糸口さえ掴めずにいる。
　つまりはもう、この問題は私の手に負える範囲を超えてしまっているのよ。
　また激痛で倒れる……だけならまだマシかもしれない。
　何が起きるか想定も出来ないし、対処だって出来ない。
　そんな義肢を、私は貴女に使い続けさせられないわ。
　データ収集も、今までの分だけでも結構な価値になると思うし
　私の作った義肢だから、少しの無理くらいなら通るハズ……
　だからもうこんな生き死にの狭間を彷徨うような生き方は……」


「ベア……」


黙っていた彼女が口を開き、言葉を遮る。


「私は、諦める気は全くないよ。
　この義肢も、ライダーも」


その、強い意志の籠った言葉に、胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。


「いい加減にしてよ！！！」


掌で強く叩かれた机が悲鳴をあげる。
怒声を震わせた部屋に、きりきりとした沈黙が突き刺さる。
静けさが響き渡ると、頭の奥でガンガンと音がするのが聴こえる。
これは怒りか、それとも悲しみか、強すぎる感情が整理のつかない頭の中でぐるぐるとのたうち回る。


「……私は、貴女に、元の生活に戻って欲しくて……その義肢を渡した……
　それなのに、そのせいで、貴女は危険な仕事をさせられて、危険な目に遭って……」


ああ、この感情はきっと、嫌悪なのだろうな。
それも、自分に対する、とびきりの嫌悪。


「私のせいで、あんな事故に遭って……少しでも償いをしなくちゃって……
　貴女がまた元の生活に戻れるなら、なんでもしようって……思ってるのに……」


本当に私が願ったのは、彼女の平穏だったのだろうか？
本当は、ただ自分が救われたかっただけなんじゃないだろうか？


「なのに！なんで！貴女はそうやって危ない方危ない方へ行こうとするの！？
　死んでも仕方がないみたいな言い方をして！リスクがあるのも気にも留めず！！
　私は貴女に死んでほしくない！生きていて欲しいのに！！」


貴女がその義肢のせいで死んだりしたら……
貴女は、また私に貴女を殺させたいの？
とは言わなかった。
これ以上自分が傷つきたくないのを、彼女の為とすり替えて。
本当に卑怯で自分勝手だ。
そんな自分が、死ぬほど嫌い。




無言で私の言葉を全部聞いていたステラは、「……ごめん」と困ったように笑って、謝った。
だから、なんで貴女が謝るのよ。