ENo.0051　アンナロッテ

　あの子に、アンナに初めて出会ったとき、あたしが抱いた気持ちはなんだったのだろう。
　この子をあたしのものにする。絶対にだ。
　愛想がなくてつんと固まった表情も、落ち着いた声音も、あたしの嗜虐趣味を煽った。なにより、あたしの顔色を窺う目つきが気に入った。この少女は、そういった暴力に既に屈服している。
　いつ、どう料理して食べてやろう。そうやって算段しているうちに五年も経って、あの子は私と相棒になる前に僚機とちゃっかりしっかり相棒になっていて、あたしの知らない親友まで連れてきた。
　あたしは、なぜ手をこまねいているだけで取り残されてしまったのか。
　アンナの連れてきた、親友だとかいう女と話しながら考える。この女のほうが可愛げがある。まだ誰にも屈服していなさそうな純朴さがある。あたしを満たすのに十分だろう。
　だけど、だけど違う。ロッテじゃない。
　この子をあたしのものにしたい。あたしのものにならなかったあの子の代わりに。あたしよりクソ野郎を選んだあの子の代わりに。この子は、アンナは、あたしのものにならなかったあの子に似ている。妊娠していると言ったあの子が産んだのが女の子なら、きっとこんな風になっただろう。
　売春宿にアンナを訪ねていったとき、あたしは正直期待していた。どれだけぼろぼろで可哀想なさまだろう、今度こそあたしは、アンナのやわらかいところに取り入って傷つけて、あたしだけのものにできるだろうか。
　それなのにあたしが抱いたものはただの同情だった。
　つんつるてんにしか見えない短いスカート、くそダサいすり切れた男ものの上着、華奢な手足はくすんだいろをしているし、あざがそこかしこに見えるし、頬はくぼんで、隈もひどかった。だけどこれまで相対した中で一番生きている眼をしていた。
　これまで相対した中で一番、目の前の少女と話しているように感じた。もう少女という年でもないことに気付くほどには。突っかかるもの言いだとか、皮肉に顔を歪ませるさまが野良猫みたいだった。たくましく生きる野良猫。
　あたしはふつふつする同情を《創造主》のせいにして怒って、それ以上はなにも伝えられなかった。これまでと同じようにしか。
　あたしはアンナを支配したかった。だけど、あたしにはアンナはあの子の娘みたいで、あたしは、あの子の娘みたいなこの子を、アンナを、ああまでして追い詰めて、今になって。どんな顔をしてどうするべきか、あたしは決めかねている。
　まあまずは、脳天気に顔を出した男に八つ当たりして息の根を止めるのが先だ。

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