ENo.0049　ソネル

状況は悪化していた。

遺跡はついに巨人と化した。
雇用者であるマテリアルベルトは、そのドゥルガーとやらをなんとしても破壊せんとしている。
幾度となく立ちはだかってきた番兵からは混乱した声が届く。
いったいこれからどうなるのか、予想もつかない。

あの頃も、そうだったのだろうか。
五年前────禁忌戦争と呼ばれたあの戦いの頃、ソネルはもちろん全くの部外者で、ただ同類達と生きていくのに必死だった。
しかし当時も今のような凄まじい状況のなか戦いが繰り広げられていたらしいことは後に知っている。
ハイドラライダーたちは、今のソネルらと同じくそれぞれの理由を持って／持たず戦場にいたのだろう。
それでも、とんでもない危機に巻き込まれつつあるし、あった。

『彼女』もそうだったはずだ。

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「私がいなくなっても大丈夫か？」

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あの頃ソネルはもう二十歳をとうに越えていて、孤児あがりとしては随分と『兄貴』だったし、
そもそもそういった生き方の子供は、そんなに長く子供のまま生きていけやしない。
だから今更ガキ扱いされるのは当時心外ではあった。

だが、子供のままで生きていくわけにはいかなかった子供が、つまり大人になったと本当に言えるのだろうか。

言えることは、今のソネルが当時の『彼女』と確かに近い場所にいるということだけだ。
それは大人になったといえることなのだろうか。
ソネルにはわからなかった。
ただ、戦場に向かうその横には『彼女』がいる。
ガブリエラ。
二人で向かう戦場は、既にかつての『彼女』が消えた戦場にも等しくなりつつある。

体の芯が冷えるような感覚。
それは長雨の続く夜のせいばかりではない。

ガブリエラ＝ストークスという誰かの名前と、そして更に別の女の声と体を残像させて
恐らくはどちらとも関係ない人格として今ソネルの僚機ライダーはいる。
いるということは『彼女』のように、いなくなる時が来るのかもしれないということだ。
ガブリエラがか、ソネルがか、わからないけれども。

そんなことは当たり前のことで、いまさらのことで、考えるまでもないことだった。
ソネルは今までずっとそうしてきたはずだし、そう知ってハイドラの手綱をとったのではなかったか。
だが、それでも言いようのない何か冷たいものが背を通り抜ける感覚があって、
それ故にソネルは今『彼女』と顔をあわせていないし、
と同時にソネルは今『彼女』と顔をあわせるべきなのだ。
何かを、何かを言わねばならないはずなのだった。
ソネルには言わねばならない何かがわからないけれども。

そして、もう出撃はすぐ明朝に迫っている。

かつて霧が覆うなか、彼女は戦場へ去っていった。
今や霧が晴れた世界でソネルたちは生きている。
ただ、雨がまだやんでいないだけだ。