ENo.0110　『Phantom Beast』

メインディスプレイの明かりを頼りに、手元の設計図にペンを走らせていく。
外部からの光が遮られた操縦棺の中、しんと静まり返ったその場所でヨナは設計図と睨めっこを続けていた。
聞こえてくるものといえばニュースと、流れで参加することになった作戦に関係している少年たちやシルウェストリス――そして、差出人不明のボイスメッセージくらいだ。

「……駄目だな、設計図を取り寄せて参考にしているとはいえ、難しい」

一度ペンを走らせる手を止め、小さく呟く。
待機中、何をして出撃を待つか――作戦に参加する少年からの問いかけで、ヨナが出した結論がこれだった。
Phantom Beastにとって心臓部となるパーツのデザイン――設計図を仕上げる。
森の中で発見されたときに比べると、今のPhantom Beastは様々なパーツが入れ替わっている。
その中には以前のPhantom Beast、つまりまだエストーリャだった頃にはおそらくついていなかったパーツもある。
大破していた状態からなんとか動かすため、そのとき積み込まれていた予備用のパーツらしきもので修理をしたのだが、どうやら今設計図を作っているパーツは予備というわけではなかったらしい。
おそらくエセルバートが使っていたと思われる小屋を調べたとき、このパーツの設計図が一枚も見当たらず、思わず頭を抱えたものだ。

止めていた手をもう一度動かして、マーケットで取り寄せた設計図を参考にしながら線を引いていく。
マーケットで他のハイドラライダーが作ったものを使うという手もあるが、このパーツ――領域瞬間霊送箱は、今のPhantom Beastにとって第二の心臓部にあたる。
Phantom Beastと己の感覚をリンクさせているヨナにとって、これは自分の心臓だ。
一度だけでもいいから、自分自身の心臓は自分でデザインしておきたい。

「……ん」

そんなことを考えていたが、ぴたり、と再び手を止める。
鋼鉄でできた壁越しでも確かに感じた殺気に、ヨナは思わず小さく息を吐いた。

「……やれやれ。人の心臓が出来上がるまでの間くらい、大人しく待てないのか」

手に持っていたペンをしまい、インクが乾いていることを確認してから、描きかけの設計図を丸めて紐で留める。
それを一度足元に転がしてから、ヨナは改めて自分の感覚とPhantom Beastを結びつけた。

「まあいいか。俺の前に現れるというのなら――俺はそれを喰らい尽くすまでだ」

メインディスプレイに敵影が映る。同時に、同じ戦場を駆けるウォーハイドラたちの姿も映し出される。
ざっと見える範囲で敵影の数を数え、ふつふつと心の奥底から湧いてくる高揚感を感じながら舌なめずりをする獣のように唇をなめた。

――さあ。今日も俺に、私に、生きていると感じさせてくれ。

――しんとした森の奥の奥深く。
簡単な墓がすぐ傍に作られている家屋の窓には、時折人影が映るらしい。

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主に自分用ユニオン。整備を中心になんやかんやしていく予定。