ENo.0198　フィガロ・ピースレイ

イルカがあしらわれたレーダー。
それに対になるようにシャチがあしらわれたレーダー。
トラックの荷台の中で、それらはポコポコ作られる。
この間はフカフカなクッションだったし、それが何故かエマの部屋にあった時は驚いたが。
それよりも。
「それ、どうなってるんだ？」
フィガロは荷台の中を除きこんではみるが、怪しい機械の駆動音が響くばかりで、闇が張り付いたように中が見えないのだ。
『当機はパーツ自動生産モードが働いています。ハイドラ乗りは定期的なパーツの更新こそが命を繋ぎます』
「そういう意味じゃねぇから」
余剰品や素材をベースにして、時には勝手に広域に手を出しているようだが、勝手に増えていくパーツは役に立つものが多く、勝手の解らぬフィガロでもありがたかった。が、多分そうしているハイドラ乗りは数少ない。
『他に聞きたいことはありますか？』
「…...…...」
Ｋ.Ｔに搭載されているのは、ただのプログラムされただけの人工知能だということはフィガロも解っている。なによりハイドラ自身がそう言ってみせたのだ。
しかし時折、不思議と人間くさい反応を返すことがある。今だって、話題を急に変えたように聞こえたのだ。
「お前、実は何か中身とかいないよな？」
『所謂ギャグですか？生憎ですが美少女に変化する機能はありません』
「いらねぇよ！？ギャグでもねえ」
なんだそりゃ、とフィガロは思わず突っ込みを入れる。日本の方ではそういうジョークもありそうだが、このハイドラがそんなもんになるとは想像もつかない。
『お言葉ですが、マスター。マスターが知らない場所では流行したんです』
「…...何が？」
『ハイドラの美少女化です』
どこの話だ、と言いたかったがそれを深く問うとまた面倒くさい言葉がはえてきそうだったので、フィガロはきゅっ、と黙ることにしたのだった。
『マスター、信じていませんね？』
「関わるな、それは沼だ…...」
痛くなってきたこめかみ抑え、深くため息をもう一度はいて話を無理矢理終わらせておく。
多分それは、荷台に触れられたくないらしい相手の作戦だったとしても、フィガロは深入りしないことをえらんだったのだった。

「電子精霊……マルコフ先輩のようなものでしょうか？本社でもそう言った研究がなされていたような。アーカイブでも見てみようかなぁ……」
「僕は結構複数体連携とかクラウド的な方に特化してるので、思考は割と単純構成だったりするんですけどね」と伸びをした。画面上で。

「とりあえず、えびっこさん……から？らしき献金については、今のとこ調査中です。飼い主さん困ってないかな……」