ENo.0201　水槽の脳髄

「そのまま進んでいってください、ノウさん！　レーダーがありますからルートは見当がつきますよね？」
《おうよ！　つーかそっちどうなってんの？》
「僕らは……実は今撤収作業中なんですよ」
《えっ何、俺置き去り？》
「いえ、サポートチームのオペレーションは続行しますが……これ以上はセクションが保たないだろうとの現場判断ですね」
《保たない？　ちょい待ち、マジで何が起きてんの？》
「ドゥルガーが、崩壊しているんです。ブレア女史が生前に言っていましたよね？　白兎がセクション・6を目指すのは、そこがドゥルガーの機能中枢だからです。
　丁度ノウさんを狙撃すると、機体が無傷だろうと『オーヴァルック』が停止するのと同じ原理ですね」
《ケッ、俺に死亡許容はさせねえっつったのはそっちだろうよ！　……で、ドゥルガーが死んだからセクションも死にかけてるってことでいい？》
「その通りです」
《そんじゃさ、その最前線にいる俺はどうやって生き残ればいいの？》
「……白兎生体化学のドゥルガー探査隊、今現在指揮系統が崩壊してるんですよ。ブレア女史は亡くなってしまいましたし、フェフフェト氏は意識が混濁してきてますし」
《は？》
「他社のミッションを受けているライダーは、おそらく脱出口の指示も受けていると思うんですが」
《何も来てねえぞオイ！？　なんかうわ言みたいな通信しか聞いてねえんだけど！》
「最悪、他社のライダーの後をついて脱出してください。大丈夫です、ノウさんのハイドラ制御力は大隊随一ですから。多少無茶なことになったとしても何とかできるでしょう」
《おだてようったってそうはいかねーからな！！》
「それに、おそらく手傷を受けることもそうそうないですからね。ノウさんなら無傷で脱出できると信じてます。……その機体は今や、培養機の夢を実現してるんですから」
《次元潜行……っての？　格闘機ならともかく、培養でやる奴なんて珍しすぎるらしいけど》
「だから夢なんですよ。誰もできると思っていなかったことが、技術向上でやっと可能になった。そういう機体なんです」
《ふーん……ま、戦場までひとっ飛びってのは便利で悪くないぜ》
「レーダーは良好ですね？　ジャンプポイント見えてますね？」
《もちろん。じゃ、行ってくるぜ！》
「僕らも撤収しながら、ありったけの資金をかき集めていますよ。ノウさんのために」
《おっ何？　ついに俺に相応しいカッコイイ高身長イケメンの人型義体とか作ってくれるの？》
「白兎生体化学本部へ納める上納金に回すんです。ブレア女史の言っていた『シャッテンフェー』。実現するとしたら、今しないと間に合いませんからね。
　女史が言っていたことが正しければ、残像領域崩壊すら乗り切れる……ドゥルガー崩壊なんてものともしないはずですよ」
《脱出口も教えねーのに献金は受け取ってんの本部！？》

生体脳使用ハイドラ『オーヴァルック』のサポート専門チームの待機所。
『オーヴァルック』帰投時は機体と生体脳の保全を行い、出撃時は戦果査定用の戦闘中継を見ながら手に汗握り、時には野次も飛ばす。