ENo.0096　オルト・イスケー

「やっぱり、ゾンビさん出てますよね……？」


オペレーションルームで、カオリンが恐る恐る声をかける。リオリカが見つめるモニターには前回の戦場での映像が流れている。ハイドラとドゥルガーやレッドドラゴンが互いを喰らい合うような戦場の地表面──まばらな緑のなかに"それ"は動いていた。


「そうね。目撃情報を見る限り……私たち、というかオクトロータスとジャンガーダの周囲に特別いるみたいね……気味が悪い」


それは死を嘲笑い動く死体、いわゆるゾンビと呼ばれるものだった。どうにも最近戦場で見かけるようになったと思ったら、出没しているのはオルトたちの戦場の近辺のみらしい。


「最初は残像か、アルラウネかと思ったんですけれどね。どうにも様子が違うみたいで……新人類？ももう少し違いますよね」


5年前の禁忌戦争の時に突然現れ、ゆっくりと歩きだし始めた新人類たち。彼らは今アルラウネによって活動を休止していた。そのアルラウネが枯れ始めた今、また動き出してもおかしくはない。
だが今回のゾンビたちは別に新人類ということでもなく、その辺に転がってそうなライダーの死体だったもののような様相らしい。


「アンフちゃんたちがあんまり怖がってないのが幸いね。まぁライダーからしたら撃てるなら大抵なんとかなると思うからでしょうけど」
「それはルオルカさんだけでは？」


間。


こほん、とリオリカが気を取り直して話を続ける。


「……それはともかく、ハイドラなら特に問題無いかもしれないけれど、生身のライダーで切り抜けられるかは少し心配ね。特にオルトくん」


彼の身体は特に戦闘用ではないから。とつぶやく。ハイドラライダーで生身でも戦える人は多くはない。彼らの武器はハイドラで、それを十全に扱えるだけで問題は無い。


「ひとまずゾンビたちの行動をもう少しよく観察して、目的を特定しましょう」
「ええ、戦闘中にも気をつけてみます」


次はセクション攻略戦だ。脅威を増していくデバステイター戦で気は抜けない。


「それ以外の……そうね、発生場所であったり、目撃されやすい地域の特定は私がやるわ」
「ありがとうございます」
「まったく、ゾンビなんて本当にあるなんて」


死者がまるで生者のように動いているのには慣れているが、死者が死者らしく動き回るようなのは見たことがなかった。


「私も実物は初めて見ました……」
「残像と違って、獣みたいに動くのね」


それに美しくないわ。と小さく呟いた声は、空中にとけてきえた。

「電子精霊……マルコフ先輩のようなものでしょうか？本社でもそう言った研究がなされていたような。アーカイブでも見てみようかなぁ……」
「僕は結構複数体連携とかクラウド的な方に特化してるので、思考は割と単純構成だったりするんですけどね」と伸びをした。画面上で。

「とりあえず、えびっこさん……から？らしき献金については、今のとこ調査中です。飼い主さん困ってないかな……」