ENo.0096　オルト・イスケー

エマさんたちが快気祝いだ！とかなんとか言いながら始めたBBQはいつの間にか社員全体を巻き込んで、僕らは支部の屋上で新製品モニターと称してソーセージやら謎の肉やらを焼いていた。
この身体は食事は楽しめるけどそんなに量を摂取できる訳ではなく、うすぼんやり給水塔の横でディーさんおすすめの飴ちゃん（バイオアセロラ味）を頬張ってたところに、ソーセージとビールを持ってご機嫌そうなエマさんがやってきた。

「壁の花……という訳でもないか、オルトはあんまり食べられなさそうだしな」
「まぁ、そんなとこ。エマさんは楽しんでる？」
「ああ、肉も美味いしエールも美味い。美味すぎる…………これだけしてもらって恐縮だが、あまりにも待遇が良過ぎないか？それこそ"話がウマすぎる"。……ハイドラライダーには明日のメシを知れないなんて話はザラなんだろう？いや、疑ってる訳じゃあないんだが」
「あー……まぁ言いたいことはわかるよ」

エマさんの素朴な疑問。確かに全体的に見て……というか恐らく残像領域だけでなく、地球の企業と比べても尋常ではない好待遇であることには、僕も薄ぼんやり気がついていた。いや僕内部の人間だけど。

「あれ？説明してなかったっけ」
「あ、先輩」

僕らの会話に混ざってきたルオルカ先輩は、片手にビール、片手に肉？の刺さった串を持った、それこそご機嫌スタイルだ。

「北部基地サルガッソーで、北進のライダー達への食料供給、ついでにハイドラライダー派遣で販促しつつ傭兵業……っていうのがこの残像領域での、僕らマノ社の立ち位置ってのは知ってるよね」
「ああ」
「ついでに残像領域は様々な異世界からの客人も少なくない。その世界の存在を知るだけで新たな販路の鍵となりうる。だからコネクションの起点になるハイドラライダーは厚遇されるのさ」

本業である保存食の販路として、この残像領域はもってこいの場所だろう。輸送コストが嵩むとはいえ『地球の食品』というブランドの需要は少なくない。だけどそれは果たしてハイドラをわざわざ管理したり、ワンオフのパーツを作るのに見合った利益なんだろうか？

「納得しきれてない顔してるね、まぁ実際それがメインじゃあない」
「というと？」
「オルトくんはアズさんに聞いてると思うけど──」

ニヤニヤと、少しもったいぶったあと、ルオルカ先輩はこう言葉を続けた。

「──ようは実験場なんだよここは。僕らが何をするのか、この残像領域で何が起こるのか。その時マノ社の技術に……何が煌めくのか」

ぽとり、と先輩の手に持つ肉の汁が下に垂れる。
にしてもお肉美味しいなぁ、と呑気にBBQに戻っていくルオルカ先輩の声が、少し遠くに聞こえた。

その代わり思考に滲むのは白い部屋、水槽の中、ガラスに写る赤目の──

「こんにちは！先日のBBQは盛況でしたね！
屋上でやったから匂いがいい感じに販促になって……コホン」

「それはそれとして、今回そこそこ話が重要なので支部長さんとも通信を繋いであります。ロドさ〜ん！（ﾎﾟﾁｯ）」

宿禰がリモコンを操作すると、ディスプレイ上に支部長室との通信が映し出された。
ぼさぼさの白髪、くたびれた白衣の男が口を開く。

「支部長兼医療担当のロドだ。療養は足りたか？本当はもう少し身体を休ませた方がいいんだが、セクション攻略は待ってくれないからな」

「ファティマ嬢の件は問題ない、自由……ってほど自由は保証できないが、ここはそこまでデカい企業でもないからな。大まかな行動方針以外はライダーの自主性に任せてる」
「ファティマ嬢のような索敵機が主戦場にいてくれれば助かるやつもいるだろう」

「居留守……というか匿う話も問題ないだろう。わけアリのハイドラライダーは少なくない、きっちり契約もしてるから向こうさんが来てもなんとかなるだろう」
「それ以前にお節介な野郎どもが黙ってないだろうしな」

不敵に笑う。

「そっちのジュネリアさんはファティマ嬢の僚機だったか？社員が世話になってるし、手伝える範囲なら手を貸すが、……まず要件を教えてもらおうか」