ENo.0398　“Neon”

　
「……仕事納めも目前か」

ぽつり、と口を突いて出た言葉に、背後の相手が身じろぐ気配がした。
軽く、首をかしげるような。

たまにこうして同僚である青年と、一緒になることがある。
互いにパーツを組んでいる時は特に言葉を交わすでもない。
ただ背を向けてそれぞれに仕事をして──たまに工具を手渡す際に声をかけるか、といった程度だが。
それで特に居心地が悪いわけでもないのだから、随分と腑抜けてしまったものだ。


今組んでいるのは狙撃砲。
これまでのものよりも若干火力は高くなる……はずだ。
今回はそこまで買い替えるものが見当たらない。
性能目当てに手に取ったブースターは同僚のお手製、ときたものだから、まったく世間は狭いなんてものではない。
ちらりと見上げれば、片隅で犬の耳持つ少女が“Neon”に寄り添い目を伏せていた。
また“おはなし”とやらをしているのだろう。


「………」

すっとまっすぐ伸びる砲身をついと指先で撫で上げる。
巨大なそれがどれほどの威力を放つものか、グランは幾度も目の当たりにしてきた。
これは撃ち抜き、貫くためだけのもの。
確かに、与えられた業務に必要なものではあるが。

できる限り速く、はやく。
望むままに片割れを駆けさせてやりたい、というだけだったのに。
火器を積み、背を合わせ、言葉を交わし。半身たる機体に寄り添うことをよしとして。
ほんとうに、いつの間にやら。


「…………来たのがここで、よかったと思ってる」

俺も、とは言わなかった。
あるいは同乗者である少女は、あのこっ恥ずかしい口説き文句を背後の彼にも告げているのかもしれないが。


戦闘は日々激化している。
人死にだってどんどん出ていて、その一人に自分たちが加わったってなにもおかしな話ではない。
だというのに──まったく、なんとも生ぬるい話だ。

ふ、と。
ため息さえ出やしないのに小さく漏れた吐息は、きっともっと、別の呼び方のほうが相応しい。

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