ENo.0049　ソネル

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──この戦いが終わったら、ソネル。お前はどうする？

仏頂面の裏で、失笑が漏れそうになっていた。
この戦いが終わったら結婚する。そんなタチの悪いジョークが浮かぶ。
あるいは験を担ぐタイプなら、戦いの次の話など一番したがらない話だ。
勿論ソネルはそういうタイプではないし、ガブリエラにそういった「感じ」が馴染みないこともわかる。
それらは、そう、この先覚えていくことだろうと。
つまり全く答えはでているのだった。

「そうだな、勿論……
　お前がハイドラライダーをやめて何かしてみたいってんなら、いろいろ考えなきゃいけねーだろうな」

おかわりしたカレー皿をソネルはスプーンで指した。
多めに盛ったので残っているライスと、追加で足したカレールーが別れている。

「お前に生活能力があるとはとてもじゃねーが言えねー。
　だが、ハイドラライダーとして存在を作られたといっても、お前がずっとそうである必要は、ない」

言って、突き立てたスプーンでルーとライスをかき混ぜる。
２つが完全に混ざっていく。それはもうライスとルーに分けることはできない。
若干行儀が悪いが、スラム育ちのハイドラライダーに求めるものでもないだろう。
話の前半で多少不服そうに眉根を寄せたガブリエラの視線が、ちらりと下へ落ちる。

「お前が調べてきた話は、まあ、大づかみ程度にはわかった。
　アルファエイトとやらと、そいつを知っていたハイドラライダーたちと、そして俺と。
　そういう奴らの観測がお前の可能性、お前の存在を今ここまでにしたなら……
　だがもう今のお前はお前自身を観測できる側ってことだろ？　俺たちがそうであるように。
　つまりハイドラライダーとして生まれたお前は、もういくらでもハイドラライダーをやめられる」
「ハイドラライダーを、やめる」

そうしてスプーンが口に運ばれる。
ゆっくりと咀嚼し、飲み込む。カレーは腹におさまる。

「ハイドラライダー稼業も、まあ、人生の一部だろうよ。例えば俺にとっては前言った通りここ数年の生業だ。
　食うためのものでもあったし、食ってきたものとも言える」

物心ついてから２０年ぐらいのうちの、数年。
お前って何歳の扱いになるんだろうな？　という疑問とともにソネルは続けてカレーを口に運んだ。

「気づいてなかったわだかまりというか、ひっかかりはもう気にする必要もなくなったしな。
　今回の事件でずいぶん稼げてる。お前も使ってないだろ？　ちょうどいい元手にゃなる」

言いながらソネルは貸し倉庫の方にやおら視線を向ける。
もしそうしたなら、多分ライセンスは”いつのまにか”手元から無くなるだろうな。そんな予感があった。

「だが、もし、お前がまだハイドラライダーを続けていくつもりなら……」

外の遠雷はいつのまにか遠くなり、風が獣の唸りのように吹いた。

「俺が呼びつけた僚機だ。
　上手くやれてる限りは付き合うのが筋ってもんだろ」

そこまで言って、ソネルは残るカレーを平らげ始めた。
ガブリエラがしばらくそれを黙って眺めている……

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遺跡巨人は崩壊している。
マテリアルベルトの担当者からの通信。
そしてその合間にノイズ、ノイズ、ノイズ。

脱出路は示されている。

明日へ繋がる道が。