ENo.0034　アンフィニ&許多

（イワクラ・ロクの告白に対して）

……とても驚きました。辛いことをお聞きしてしまいました、ごめんなさい。
…ですが犯罪者であるという事実を聞いても、不思議とイワクラさんを嫌いとは思いません。
犯罪者であってもなくても、音楽が好きでマーマイトが好きでいつも話しかけてくれるイワクラさんには、変わりないです。
私達はイワクラさんに傷つけられたことがないから、そう思えるのかもしれません。
もし傷つけられていたら私達もイワクラさんを決して許さなくなるのかもしれません。
もしそうなったらイワクラさんを罰そうとするかもしれません。報復しようとするかもしれません。
そして報復に成功して、貴方が生きていようが死んでいようが…なおも許さないかもしれません。

…今、イワクラさんは奪ってもいませんし、騙してもいません。変なお香をやらせたりもしていませんね。
これまでに許されない罪を犯してしまったと理解しておられるからではないですか？
恋人さんに許されないとわかっていたから犯罪者であることを黙っていたし、実際に許されなかったのですから…。

私達はイワクラさんは既に罪の報いを受けていると思います。
恋人さんとの決別が、貴方の犯した全ての罪に釣り合うものかどうかは、私達には断じ得ないことです。
傷つけられていない私達が貴方の犯した罪を許すわけにもいきません。そのような筋合いはありません。
でもともかく、イワクラさんは深く反省されていると私達は感じたのです。
イワクラさんは自分の犯した罪に向き合うことができる方です。
だから犯罪者であると打ち明けられても、この人は関わっても大丈夫な、大事な友人だと思うことができます。


……………。

イワクラさんが過去のことを打ち明けてくださったのですから、私達も本当のことをお伝えしなければならないと思います。
この格好と角について、イワクラさんには何もお知らせしたことがありませんでしたね。
　　　　　　　　　　　・・・・・・・・・・・・
この子供のような姿は、他の人から奪ったものです。
私アンフィニが身体を持っていた頃は、もっと背が高くて、あまり子供には見えなかったのですよ。

私達はわけあって強制収容所紛いの施設に居たことがあります。
その中で、大変親切にしてくださった看守の女性の姿をお借りしました。
私達が直接手を下したわけではありませんが、脱出する際に彼女の遺体を見たのです。

ひどい混乱の中、必死で逃げました。
でも、よく覚えていないと言い逃れすることはできません。私達は必死でしたが冷静でした。
追ってくる兵士は皆、兄さんが排除しました。男性を5人、兄さんが壁や地面に叩きつけて頭蓋骨を砕きました。
逃げる途中で十数人に追い詰められて、私は自爆しました。兄さんだけでも逃げてもらおうと思いました。
でも、燃える中兄さんは私のブラックボックスだけかろうじて回収して、私はせめてもの偽装にならないかと姿を変えました。
混乱に乗じて遠くへ逃げようとしていたほかの女性と筏の取り合いになって、殺しました。
筏さんは、元は私達の…乗り物を小型化改造したものなのです。でも、強奪したものでもあります。
追っ手の届かない遥か遠くへ逃げるには…、筏さんがどうしても必要でした。
他の人を乗せる食料の余裕などとてもありません。
物質的余裕があって一緒に乗れたとしても、その人を信用できなかったでしょう。
私達はこれまで――禁忌戦争の戦場でも、現在の遺跡探索競争に伴う武力衝突においてもそうです――
これまで行った全ての殺人について、『生きていくために仕方ありませんでした』と弁明するほかにありません。
残像領域に辿り着いても、もしかしたら誰かが報復や懲罰にやってくるのかもしれないと思いながら暮らしています。
とても、怖いです。未だに恐ろしいのです。それから6年、禁忌戦争を生き抜いた今でさえも…。


………。なぜこんな話をしたのかと思われますでしょうか…。もう一度端的に言います。

私、アンフィニは貴方に姿を偽ってきました。
誰もが怖かったからです。いいえ、今だって怖いです。それなら今すぐ偽装を解けと言われても、未だに躊躇があります。
この姿をしていたのは別人です。フリムさんという看守の女性です。
とてもお世話になった方の姿を、今も隠れるために利用し続けています。

私は、私達は、そういった浅ましい逃亡者です。
そんな我々が、貴方を友人と呼んでもよいものでしょうか？

「ええと、流れで始まってしまったのですが、そうですね。本社……というか特に開発部が興味を示しまして」
「今後残像領域向けに食品を卸すにあたっての傾向というか、好みといったものをリサーチして欲しいと言われました」
「なのでこちらにありますじっけ……試作品の缶詰も良ければお使いください。そして是非アンケートにもご協力いただければ嬉しいなーなんて」