ENo.0146　フレースヴェルカ

迷いを捨てよ。

迷いを捨てよ。

振り返るな。

今こそ飛ぶ時。



目の前にあるウォーハイドラ。
それは、わたしに与えられた物。
幾度の戦場を超えて共にした者。
その正体を、わたしは知らない。

わたしの知らないところで、知らない変化を持っている。
見ていないところで。感じないところで。聞こえないところで。
なのに。なのに。


「…………《Äventyr》」


その名前をわたしは聞いた事がなかった。聞いた事がなかった『はず』なのに。
どうして、その名前を知っていたのだろう。
まるで、初めから知っていたかのようにすら思えるのに。
なぜ知っているかは、少しもわからない。


「…………《Flesvelka》」


何も覚えていなくて。何も知らなくて。知っているのは、三つの事。
私の名前。《Flesvelka》。
彼女の名前。《Äventyr》。
積まれた名前。《ERIS》。


「…………？」


違う。思考が一瞬どこかにそれた。ほんの一瞬だけ、わたしじゃない気がした。
……いま、わたしは、なにを、かんがえた？


「どうしましたか」


声を聞いた。顔を向けた。


「今日は出撃やめますか？　たまにはそういう日もいいと思いますけど」
「…………いや、いく」


あぁ、彼女だ。
大丈夫。きっと、考えるのをやめるほうがいい。
これ以上は頭が痛くなりそうだったから。


「そうですか。一つだけ、連絡します」
「なに」


「武装いじりました。よろしくお願いします」
「………はぁ？」

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが……無い。何処かへ消えてしまったかのようだ。
ある一人の幽霊が、それについて聞かれるとニヤリと笑う。




「どこだと思う？メテルカならわかんじゃねえかな。」