ENo.0130　かもめの亡霊『モーヴェ』

5年前と違って、オレをいろいろ違う角度で見る奴が増えてきたんじゃないか？って最近思い始めた。

…ブラッド・メルヴィルなんかいい例でさ。
「夜中トイレ付いてきて」とか…やべえ、今思い出しても笑っちまう。
ブラッドにオレはどんな風に映ってるんだろう。妖精？
…まだ、5年前の話したことないし、オレもブラッドの話はあんまり深く聞いてないけど、快活でいい奴だし。カレー美味しそうに食う奴に悪い奴はいないって昔から言われたっけなあ…
ハイドラライダーとしても頑張ってるって聞いてる。僚機もいるなら、ますます応援したくなるのがオレってものよ。


幽霊を怖がるのは、サダメとエマニュエル。
なんでオレ、エマニュエルのことオッサンって呼んでんだろ。別に船長に似てる訳でもないのにな。
幽霊とか霊障は怖いくせに、自分が死ぬのはどう思ってんだか。ここ数日、通信を送ってみたけど返事が帰ってこない。死亡者のリストに載ってないから、そのうち帰ってくる……はずだよな？
…あいつ面白いし。オレのこと、夜眠れなくなるくらい怖がるんだぜ！そんな奴生まれて（死んでから）初めて！メーヴェにいたずらしてるみたいな気持ちになるからな。

サダメもちょっと声がプルプルしてたけど…でも、オレに興味があんのかな。ghost in the machine、だってさ。…詳しい意味は知らねえ。でもそっくりそのまんまだよなあって。
…憑依とか、人を祟るとか、やったことないしやる必要も無い。でも幽霊っぽい。憑依してハイドラを動かせたら、もっといっぺんにいろいろなことができるようにならねえかなあ。メーヴェがいたらきっと止められてたけど、今なら…？


メテルカは……
メテルカはある意味同類、そう思う。でも、オレとまた違う感覚を持ってる。オレに嗅覚はあったけど、あっちには無いみたいだし。お互い苦労してんだなって思うよ。
でもな。

帰ってこないんだよ、メーヴェもオレの生きてた身体も。

だから今頑張ってるけど、到底手が届きそうには無い。


違う意味で同類なのはきっと、ストラフ。
オレが生きてた頃、船に似たような耳の仲間がいたからなんとなく印象に残ってる。世界がもしもホントに滅んだら…その時でも一人にはならないと思うと少し心強い。海の底の事はぼんやり覚えてるけど、そこは本当に冷たかったから。
…あとさ。あいつ、相当なハイドラライダーなんだよな？オレも負けてられねえ！


…フレースヴェルカ。あいつは全くわからない。
謎を着て歩いてるみたいで、幽霊の手を握るみたいにつかみどころがないくせに向こうからはつっついてくる。そんなのアリかよ！
知らない誰かからのメッセージも届くし…ユニオンメンバーの詮索はあんましない（真っ当な身分なら、もっとキチンとした…マノ・ボトリングみたいな所に行ってもいいんだから）ようにはしてる。でも…「勝ちたい」って気持ちが、どこかで燃えてるような。


…フェティヤ。オレの兄ちゃん。
…ああ、あんなバカみたいな出会いを、兄ちゃんはあんなにもすんなり受け入れてくれて、オレがフェティヤを兄ちゃんって呼ぶことを許してくれる。オレを弟だって言ってくれる。うれしい。

それなのにオレは。あの顔見ると、残像領域に来たばっかで何もかもが珍しかった頃のオレとメーヴェを時々ふっと思い出すし。
真夜中に寝てる兄ちゃんの羽を見ると、あの淡く空を塗り広げたみたいな青色が、白に羽先が黒色の、あの色に見えてしまう。
最近、羽が痩せてきて、色も落ちてきている。
心配だ。
（このまま）
…色がますます近くなってる。
（かもめの羽の色に）
雨続きで日光を浴びようにも難しいし、何かできないかな。
（なっちゃえばいいのにな）

（何考えてるんだろう。兄ちゃんは兄ちゃんで、クソ兄貴とは全然違うのに）


残像って存在がある以上、幽霊も当たり前の存在みたいに接してくれるのが、こっちも当たり前だと…どこかでそう思ってた。でも違ったんだ。そして、オレはそれが嬉しい。

（あれ、この人たちが死んだ時）

（オレ、どんな顔すれば）

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが……無い。何処かへ消えてしまったかのようだ。
ある一人の幽霊が、それについて聞かれるとニヤリと笑う。




「どこだと思う？メテルカならわかんじゃねえかな。」