ENo.0176　カヴネル・レビン

大気が引き裂かれる音。後方からの音が消える。
この世界に落ちてきた時から切望していた、音速の世界へ。オレは再び足を踏み入れた。
懐かしい感覚。そうだ、これが――
『ライトニング』の力なんだ。

相棒『ライトニング』の翼から光の刃が閃き、視界に飛び込んできた敵を次々と斬り伏せていく。
デュアルブレード、今回の戦闘から実装した新兵装だ。

モーヴェのやつ、幽霊のくせにこんなにもいいモノを作ってみせるとは。
傭兵になった後のオレを死ぬほどビビらせただけはあるな。
それをからかわれたことには、ちょっぴり、むかついたけど。

雷と閃光を受け、粉々になっていく敵機。
…でも、まだ足りない。まだ足りないんだッ！！
マシン・オーバーロード…ドラゴナイズさえあれば。もっと…！

身も心も衝動に駆られて。オレは身投げするように、アリューシャントレンチの魚雷の群れに突っ込んでいった。
脆い機体だ。くれるものならくれてやる。
自暴自棄で、しかしどこか祈るような気持ちで。オレが目を閉じた、次の瞬間。
…粒子の爆風はオレの相棒の遥か後ろまで、逃げるように逸れていった。
たまたま発動させていた、霊魂律動（おまもり）のせいで。

（…チッ）
ふと、自分の心に潜む悪魔の、舌打ちする音が聞こえた気がした。
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空は好きだ。ドラグーンも…好きだ。
でもオレが一番憧れていたのは、いつだってトロバだった。
トロバはいつだってオレよりクールで、賢くて、強い兄貴だった。

オレはトロバになりたかった。髪を同じ長さに切り揃えたり、所作や口調を真似してみたり。
他にもいろいろやった。その度に、大人たちに注意されたりしたっけ。
トロバからも「お前は男になるつもりか！？」みたいなこと言われたな。

違うんだ。
オレはただ、トロバみたいにクールに、賢く、強くなりたかったんだ。

トロバもドラグーンライダーになろうとした。
そして、オレの代わりになろうとした。オレを、わずかでも命がけの戦場から遠ざけるために。

結論から言うと。オレはトロバになりきれかったし、トロバもオレになることはできなかった。
トロバも魔力生成量は高い方だった。ドラグーンの操縦には足りてはいたが、生成量が感情に左右されやすく不安定で、ライダーには不適とされた。
適性試験に落ちたトロバは、ドラグーン整備士の道を歩もうとしていた。きっと、せめてオレのサポートに回りたかったんだろうな。

オレの方はというと。ビビりも泣き虫も治ってねえし、どっか抜けてるし、そして弱い！
…こんなのでよく傭兵やっていけたな、オレ。

トロバを喪ってからは、オレはさらにトロバを模倣するようになった。最初こそ咎めるやつもいたが、次第に誰もそうしなくなった。

そのうち『わたし』は、自分のことを『オレ』と呼ぶようになった。
気が付けば目つきも口調も、トロバそっくりになっていた。
オレはうれしかった。オレがトロバのように生きることで、トロバがオレの中で生き続けているような気になれたから。

［説明］
飾り気のない格納庫。その奥には、黄色い機械仕掛けの竜が佇んでいるという。
拠点として利用したいなら、ここの所有者に申し出てみるのもいいだろう。

看板には次のように書かれている。

ここを拠点とする者は、以下の恩恵を受けることができる。
・訓練は基本的に制御のみだ。
・購入は主に追加素材、または機動力強化が中心だ。
・ブックメイクは原則行わない。

オーナー：Eno176