ENo.0130　かもめの亡霊『モーヴェ』

『……おねえちゃん？　来てくれたの……？　おねえちゃん……！！』



……目にのせるフリをしたアイマスクは、俺の後頭部をすり抜け落ちた。暑さも湿り気も感じないから、リラックス効果なんてまったくなかった。

リラックスなんか出来っこない。無性に腹が立った。
羨ましかった、憎たらしかった。


「≪ΜΕΛΠΟΜΕΝΗ≫、なにが、世界の救命だ。お前のせいで、残像領域は端っこから崩れてんじゃねえか。」

格納庫のドアを蹴飛ばすフリをして開けた。
彼女《サラミス》のイカリは引き抜かれた。

「お前は良いよな、お姉ちゃんがいて」

バイオコクーン。五年前のハイドラ大隊によって陥落した筈のバイオスフェアの主……と、定かでない過去のニュースと、知識でしかオレはそいつを知らない。
メーヴェとオレが来るほんの少し前に、バイオコクーンは死んだ。だから本物を見るのは今日が初めてで、

「死んだお姉ちゃんが帰ってくるんだもんな？そんな羨ましい話があるかよ？そのくせオレの兄ちゃんがお前のせいで何回撃墜された？なあ、≪ΜΕΛΠΟΜΕΝΗ≫。ズルいよ。」

今日が最後だ。

「お前だけずるい。お前はオレたちハイドラ大隊の敵だ。だから殺してやる、≪ΜΕΛΠΟΜΕΝΗ≫の夢も覚ましてやる」

【HCS起動:エンジンC-1,C-2,C-3…限界駆動キャップ開放】
【ライセンス認証。ようこそ モーヴェ・カロン】

「夢から覚めようってオレが決めたのに、邪魔すんじゃねえ！！」

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが……無い。何処かへ消えてしまったかのようだ。
ある一人の幽霊が、それについて聞かれるとニヤリと笑う。




「どこだと思う？メテルカならわかんじゃねえかな。」