ENo.0292　ディーヴァ

･･･空虚な時間が過ぎた。
敗北したトスカは、ふらつくままに機体から這い出し、ディーヴァのもとへ向かう。
その足取りは、決して早いものではないが･･･焦りを大いに含み、そして執念のようなものを感じさせた。

ディーヴァを害そう、というものではない。

ディーヴァもそれを分かっているのか、･･･或いは全く別の意図か、膝をついた機体を、フレームから怪しい音を上げさせながら乗降状態にした。


「ディーヴァ！！」


トスカは縋りつくように、悲鳴のような声を上げてディーヴァの首元の断線したコードを指で繋ぐ。
手が震え、ちっともうまくいかなかったが･･･ふわり、とコードは『一人でに動くように』絡まりあい、


「･･･ご心配　ありがとうございます　ほら　ちゃんと　声　出ますよ」


それを見て、トスカは歯を食いしばるようにして目を瞑る。
強引に、シートからディーヴァを引きはがすようにして、彼女をかき抱いた。

どうして、どうして、とトスカは慟哭する。


「えへ　トスカさんが　お強くて　つい」

「それに　ほら　トスカさん　多分　死のうと　してました　よね？」

「分かるんです　　今は　特に　分かるんです」

「良いんですよ　そんなまでして　無理に　『体を返そう』　だなんて」

「･･･足に　隠してる　ナイフも　ダメですよ」


言うが早いか、からんからん、と、唐突にトスカのワンピースドレスのスカートから滑り落ちるようにナイフが弾かれ、転がって行った。
違う、とトスカは声を漏らす。


「ねえ、ディーヴァ･･･あなた、あなたは･･･！」


今度は、何を無くしたの･･･？


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『代償天才』
そう言われる言葉がある。
単に、芸術家などが精神を病みやすく、それは悪魔との取引を行ったからだ、などと言われることもあった。
しかし、例えば身体の欠損を受けたものが、それがかつて司っていた脳の領域を、隣接する別の領域が得ることでこれまでにない才能を得るというパターンが報告されていた。
勿論、そんな事を表立った実験などで行うことは出来ない。
しかし･･･ここに、事故であちこちを失った末に、才能を得た者がいた。
ある者たちは彼女に目をつける。
健常であったはずの部位も欠落させ、感情の一部も殺し、かつての歌声も閉ざされた彼女は輝かんばかりの才を得たという。

今回、彼女は新たな扉を開けた。

さて、その代償は

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「･･･　すいません　もう少し　強く　抱きしめてください」

「･･･えへ　遠くなっちゃいましたね　あまり　感じられません　でも　もう」


トスカ（復讐者）を演じ続ける必要なんて、無いんですよ。


事故に共に巻き込まれ、一人の少女の体を奪うように生き永らえた女は、何もかもをぼろぼろに無くしながら、それでもほほ笑み続ける少女を止めることも、戻すことも出来ず、ただ抱きしめ続けたという。

「（有名曲のピアノアレンジが流れている･･･　激しいい曲調だったが、こうして聞いてみるとしっとりした印象もある）」
（射撃５　素材＋１）


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緩い空調にむき出しのコンクリートと配線。

人間用の火器練習用の的がやや離れた場所に見える。

人数分のイスが用意され、それ以外は壁際に積まれている。

軋む扉を二枚抜ければ、ただ広い荒野と、いくつか点在したジャンクで出来た的。

戦場のジャンクが一時的に集められる場所のすぐ近く。練習にそれらを吹き飛ばせば、幾らか使えるものくらいは見つかるだろう。

戦いは、果たして戦いなのか。
分からないまま、それでもまた戦場に立つ。
さあその前に、動き回って生きる糧と生き残る種を得よう。