ENo.0110　『Phantom Beast』

目の前にある食事をじっと見つめたのち、静かに口へ運ぶ。
舌の上に広がる優しい味と温かさは、長らく感じていなかったものだ。
少しずつ、けれど確かに食べ進めながら、この食事を提供してくれたハイドラライダーの姿を思い浮かべる。

「……物資支援でも十分なのに、本当に食料支援を受けてもいいのだろうか……」

ぽつり、と思わず口からこぼれた言葉は、もう何度目かになる言葉だ。
食料の大切さは、スラム街という場所で育ったヨナ自身が心の底から知っている。
軍に拾われ、様々な戦場に立つようになってからは、余計にその大切さが身にしみた。
この世界で繰り広げられているのも、一種の戦争だ――食料は非常に重要なものになるだろう。
だからこそ、疑問に思う。こんな野良犬のような奴に、本当に食料を分け与えてもいいのか、と。
食料を分け与えても問題ない、と判断しているということは余裕があるのかもしれないが――余裕があるのなら、貯蔵しておいたほうがいいのではないだろうか。

「……まあ、こうしてちゃんとした食事がとれるのは、正直ありがたいんだが……」

ううん、とまた一口食事を口に運ぶ。
マギカマキナにいた頃も、残像領域にやってきてからも、主要な栄養はサプリメントを口に突っ込むことでなんとかしていたし、ほとんどの食事は携帯食料でなんとかしていた。
ちゃんとした食事を作ることはあっても、簡単に作れるような軽食ばかりだったから、まともな食事は本当に久しぶりだ。
まともなものを食べれるのはありがたいのだが――どうしても心配になってしまう。

「……次に連絡を取るタイミングに合わせて、本当に問題ないのか、もう一度確認してみるか……」

それから、何か恩返しとして渡せそうなものがあれば、それを渡そう。
食料支援をしてもらった分は分で、ちゃんとした形で対価になるものを渡したほうがいいような気がする。
そんなことを考えながら、ヨナは最後の一口を口に運んだ。

――しんとした森の奥の奥深く。
簡単な墓がすぐ傍に作られている家屋の窓には、時折人影が映るらしい。

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主に自分用ユニオン。整備を中心になんやかんやしていく予定。