ENo.0136　エマニュエル・スミス

ロックの抱えている問題は、ちょいと根深そうだ。あいつにも直接言ったが……『裏切り』ってのは呪いを生む。

恨みを買うって意味じゃあないぜ？自分が自分を『呪う』んだ。
例え相手が生きていても、許してくれても、もう同じ目で見る事はできない。
自分がうそをついても、『負い目』はうそをつかない。

だが、これは言わなかったんだが……
これから先を変える事はできると思うんだ、俺は。
過去を火にくべる事は出来なくても、今燃える事はできる。
しかしそいつは、俺ごときが言って良い事じゃあないんだろうな。
力になりたい相手ほど、力になれないんだ。そういうもんだ。


ドラゴネット社を爆破したのはどいつだ？
水臭いぜ。爆破工作といえばエマニュエル・スミスだろ。
まあ最近まで自分の事でごたごたしていて、戦果も落ちてはいるがな……
とにかくファティマが動きやすくなりそうで良かった。
借りを返す事はできなかったが、まあそれは追々別の機会にでもって事でひとつ。


ジャック……あいつは不思議な奴だな。同郷ってだけであそこまで全肯定できるものか？
よっぽど愛国心が強いのか、それとも……
嫌な気分は全くしないな。むしろどちらかというと、あいつになら俺の悪いクセも話せるような気がする。
それでいて、全部話すわけにはいかないっていう妙な遠慮も同居している。不思議な奴だ。

ラスティ。人間と言ったのは皮肉じゃあないぜ。
あんたは思慮深いし、賢いんだ。ありのままをそのまま受け止めつつも、疑問を投げかけられる理性がある。
馬鹿にしてるわけじゃないぜ。そういう当たり前の事を、できてない奴が俺達の世界にはありふれてたんだ。
お前には分からないかもしれないが、『人間』と話せる機会はそんなに多くないんだぜ。


モーヴェ。言ってて自覚はあるんだぜ。こんな事を言っても何にもならないってな。
俺はお前を救えない。もしお前に弾丸が通用するなら、いっそラクにしてやりたいと思うくらいだ。
俺はお前が怖い。お前という存在は、俺にとって生々しすぎるんだ。
誰だって『次』が『今日』だなんて思うわけがないだろ。
そんな現実を見せつけてくるお前が嫌いだ。お前の力になってやれない自分は嫌いだ。


フィガロ。ここから先の事は、お前に決めてもらうぜ。お前も分かってるだろ？
ここまで書いたように、俺は誰も救えない。分かるだろ？
ファレンですら救ったのはお前らと、ルオルカだ。
それで良いと思う。必ずしも俺がやる必要はない。重要なのは、結果を出す事だ。
そしてより結果を出せる方が実権を握るべきだ。

『デバステイターを倒す』か、『そんなことは他に任せて逃げる』か。
決めるのは、『次』の時代を握るお前だ。フィガロ、お前ならやれる。
なあ、フィガロ。お前に伝えたい事は、酒の席ですらほとんど伝えられてないんだ。
シリアスなムードは苦手でね。口下手な俺を許してくれ。

俺はおそらく、このオペレーションを無事に終えられたら除隊するだろう。
これが俺にとっての最後の仕事になる。
名残惜しいが……心から任せられる、お前という人間と出会えた事は、嬉しくて胸がいっぱいになるんだ。
面と向かっては、口が裂けても言えないがな。

なあ、フィガロ。

俺には無理でも、お前なら救える。そう信じているぜ

「あわわ……襲撃とか怖いですね……どこの世界でもこういうのはあるんですねぇ……ドラゴネットでしたっけ？なんかものすごく聞き覚えがありますが、大変そうですね」

「そういえばファティマさんにごちそう作らなきゃってざわついてる人たちがいましたけど、どうしたんですか？」